なぜ祖国に戻ったか
——カナダとロンドンで学び、ヨーロッパとアメリカのレストランで働かれた経験をお持ちです。 なぜペルーに戻ったのでしょう?
マルティネス:ペルーを離れたのは、ガストロノミーを勉強したかったからなのですが、当時はペルーに料理学校はありませんでした。 ペルー料理は今ほど有名ではなかったし、私自身、ペルー料理の美学にはとくに誇りを持っていなかった。 ペルー人も家庭ではペルー料理を食べていても、外食するとなればフランス料理やイタリア料理のレストランに行くことがほとんどでした。 このような背景もあって、料理を学び、プロの厨房で働くために海外に出ました。
しかし10年ほど海外で過ごし、帰国したときには美食革命が起きていました(美食と無縁の地とされてきた土地で、ローカルの食材にこだわって新境地をひらく料理人が台頭してきたこと)。ペルー料理を専門とする高級レストランを見かけるようになったんです。これはまさに、「帰国して働け」という祖国からのメッセージでした。
美食のパラダイム転換を起こすような食材や料理を提供する——これこそ、私が今まさに行っていることです。高級レストランでは、キャビアや和牛など、目にするのはいつも同じような食材です。しかし、 われわれは違います。 日常的な食材で、料理を最高級レベルまで高めるのです。
——政情不安の時代にリマで育ち、ペルーの生態系がそこまで多様であることは知らぬまま、いわば「サイロ化」された生活を送っていた。 その後、どのように「発見」したのですか?
マルティネス:ペルー人が本格的に自国の料理を作り始めたのを見たときが「発見」でした。そして、極めたいなら旅に出なければならない、と気づきました。
1年間、ペルーのさまざまな地方を旅し、新しい食材、新しい物語、多様な文化や調理法をこの目で見て学びました。これは現代料理にとってまさに革命でした。これらの伝統は、今のわれわれの取り組みに対する答えだったのです。
食が産業界に支配されつつあるものの、おばあちゃんの料理に「答え」があるインドでも同じでしょう。答えを持つ市場が、ショッピングモールや大型店のせいで失われつつあるのです。
——インド料理とペルー料理に共通点はありますか?
マルティネス:スパイスの使い方、煮込み料理、米、野菜、魚の使い方など、多くの共通点があります。 ニンニクやショウガを使うことなど、ほかにも私たちにはたくさんの共通点があることがわかりました。自国の料理に誇りを持っていること、強い食文化を持っていること、色彩豊かな市場があること、これらもペルーとよく似ています。スパイスの使い方にも驚かされます。
この旅の経験を生かして今後何をするか考えるにはまだ早すぎますが、必ず何かが実現すると感じます。あなたの国の料理には強い風味があり、思想やアイデンティティがあります。
ペルーとインドは遠く離れていますし、歴史上もほとんどつながりがないと思いますが、だからこそ、「旅をする」ことは重要なんです。
——料理に影響を受けた人物は?
マルティネス:ペルーのいろいろな地方を旅しているときに出会う人たちすべてです。主に農業に従事している人たちで、私の料理に応用できる知識を持っています。
都会に戻ると私たちは食べ物とのつながりを失ってしまいますが、都市の外にいる人たちは、気候がどのように変化しているのか、伝統がどのようなものなのかを知っています。私は彼らから農業のやり方、土壌を守るための種の撒き方、コミュニティの作り方などを学びます。彼らはさらに、人々がいかにお互いを頼りにしているかを教えてくれます。
そしてそれはレストランでも、同僚やゲストとコミュニティを築く上で大切なことです。 そういった知恵は自然な場所から生まれたもので、人間が何年も前から、制度に頼ることなく、多様なルールやメソッドの下で生活してきたことに派生しています。