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最優秀賞を獲得し、8月の「Maker Faire Tokyo」への出展を勝ち取ったチーム「Poly's Factory」メンバー。
(フォーブスジャパン8月号より)

最優秀賞を獲得し、8月の「Maker Faire Tokyo」への出展を勝ち取ったチーム「Poly’s Factory」メンバー。
(フォーブスジャパン8月号より)

「誰でもモノづくりができる時代」がついにやってきた―。

クリス・アンダーソンが著作『メイカーズ』で世界に衝撃を与えてから約3年。
“メイカーズ・ムーブメント”と呼ばれる革命は、日本でも急速に広がりつつある。



5月末、東京・秋葉原にあるモノづくりの拠点「DMM.make AKIBA」で、4人の男女が集まって木材の切り出しを行っていた。広いフロアには、3Dプリンターはもちろんのこと、何に使うのかもよくわからない巨大な工作機や試験機などがずらっと並ぶ。

ここは、総額約5億円分の最新機材を導入し、昨年11月に開設された国内最大級のシェア・ファクトリー。オフィススペースも完備しているが、4人は同施設に入居しているスタートアップではない。

2日後に開かれる、アマゾン データ サービス ジャパン主催による初の開発イベント「AWS IoTハッカソン」に出場するべく即席で結成されたチームのメンバーだ。

「IoT(Internet of Things)」とは、「モノのインターネット」とも訳され、従来のパソコンやスマホに限らず、身の回りのさまざまなものがネットに接続される世界を指す言葉。そのIoTをテーマに、プログラマーやデザイナーなどがチームを作り、このハッカソンで限られた時間内にアイデアや技術力を競うのだ。

彼ら4人(チーム名は「ポリーズ・ファクトリー」)が今回のハッカソンのために製作していたのは、異なるロボット間でもキャラクターの「個性」や「記憶」を共有できるというクラウド上のプラットフォーム。

……と何やら意味不明だが、リーダーの佐藤哲也(34)はこう説明する。
「たとえば産業用ロボットだったら、一般にロボットアームに特定の動作をさせ、記憶として覚えさせるのですが、このプラットフォームを使えば、クラウドを介して、同じ動作を他のロボットにも移植できます。だから量産化も簡単ですし、ほかにも介護などいろんな分野に応用できると考えています」

ロボットだけでも大変なのに、そのプラットフォームを作ろうなんて、かなり“ぶっとんだ”発想に思える。だがプログラマーの堀川隆弘(34)はこう話す。

「僕は家にペッパー君(ソフトバンクが販売する感情認識パーソナルロボット)を持っているんです。ペッパー君で普段プログラミングしていて、そこからヒントを得ていることが多いですね。ペッパー君は初心者でも結構簡単にロボットのふるまいがプログラミングできるんです。今回は、それと同じような環境をクラウドでも実現できたらいいなと考えました」

IoTとクラウドとの関係については、テクノロジーに明るい読者でなければ、ピンとこないかもしれない。ロボット製作にクラウドがどのように関係するのか。

今回のIoTハッカソンを主催するアマゾン データサービス ジャパンの長崎忠雄社長に話を聞いた。

「IoTに関しては、いろんなところにセンサーを取り付けて、そこから(音声や画像、位置などの)情報を取得するのが今の流れになっています。4~5年前までは、それをやるにはハードウェアにかなりの投資が必要で、資金力のないスタートアップには難しかった。」

「でも今はAWSのようなクラウドを活用することで、簡単かつ低コストで、センサーから送られてくるビッグデータ(大量のデータ)をひたすらため込み、分析できるようになったのです」

昨今のIoTブームは、クラウドという技術的基盤の発展なくして起きなかったということか。


チーム「Clickey」のメンバー。従量課金を可能とするコンセントを発案した。 (フォーブスジャパン8月号より)
チーム「Clickey」のメンバー。従量課金を可能とするコンセントを発案した。
(フォーブスジャパン8月号より)



素人でもここまで作れる

同じ日、リクルートが昨年末に開設したITクリエイター向け会員制スペース「TECH LAB PAAK」(渋谷)では、同開発イベントへの出場を控えるもうひとチームが製作作業に追われていた。フロントエンドエンジニアの平山真悟(23)を中心とするチーム「クリッキー」だ。

平山たちのアイデアは、「従量課金できるコンセント」。公共施設やカフェなどの事業者がこのコンセントを導入すれば、客は利用料を支払うことで電源を思う存分使えるという仕組みが作れるそうだ。

このTECH LAB PAAKには、DMM.makeのような充実した工作機械があるわけではない。それでも、会員なら3Dプリンターが無料で使え、また近くに東急ハンズもあるので工具の調達にも便利だという。サンドペーパーでコンセントの筐きょう体たいを磨いていたUXデザイナーの西宮一喜(24)はこう語る。

「もともと筐体は粘土で作ろうと思っていたんです。でも、実際に作ってみたらクオリティが低すぎて……。それで無理矢理でもいいから3Dプリンターを使おうと思って、ソフトウェアを入れてやってみたら、案外簡単にできたんです」

クリッキーはデザイナーやエンジニアが中心のチーム。ソフトウェアは本職だが、ハードウェアは全員が素人だ。メンバーの中で、工業高校卒の平山がただ一人、「ハンダ付けならできるレベル」だったという。

そんな彼らの心強い味方となったのがDMM.makeだ。DMM.makeはIoTハッカソンのスポンサー企業として、本選出場チームに4日間無料で施設を貸し出すなど、積極的にサポートを行った。

「DMMのメンター(相談役)に質問できたことは大きかったですね。電流の測定方法とか、スイッチの切り替え方とか、よくわからなかったので」と同チームのエンジニア、安田裕介(25)は打ち明ける。

平山も同じ意見だ。
「できるかできないか、という判断をしてくれたのはメンターだけでした。最初は僕たちもどうすればいいかわからずにいろいろ試していたんですが、『それは難しいからこのタイミングではあきらめた方がいいよ』って、僕らの技術力のレベルを見通してアドバイスをしてくれたんです。むしろ、途中からはアドバイスをもらうためにDMMに通っていたくらいです」

平山たちはDMM.makeをフル活用して、どうにかイベント当日までに試作品を完成させた。

イベントだけで終わらない

2日後、品川駅(東京)近くのホテルで開催されたIoTハッカソンの本選。全5チームが接戦を繰り広げるなか、最優秀賞を含む3部門に輝いたのは、ポリーズ・ファクトリーだった。

「まさか最優秀賞がとれるとは思ってなかったです。でもとれた以上、次は事業化も視野に入れていきたい。実装できていないアイデアもたくさんあるので、さらにもっと未来が見える形にもっていきたいですね」と、佐藤は新たに意気込みを語った。

一方、平山率いるクリッキーも、「AWS賞」と「DMM.make賞」の2部門で表彰された。平山はこの結果を前向きに捉えている。

「優勝はできなかったけど、DMM.makeを無料で1カ月間利用できるスカラシップなどをいただきましたし、イベントのスポンサー企業にも興味を持っていただいたようです。そういう次につながる機会を得られたことが重要なので、僕らとしてはうれしいです。さっそくDMM.makeに通い詰めて、製品化につなげられるよう頑張りたいです」

一度火が付いたモノづくりへの情熱は、簡単に消えることはなさそうだ。

増谷 康 = 文 佐々木 康 = 写真

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