最初に出てきたのは、「フリェプ」と呼ばれるブリヤートのパンだった。今日のウランバートルでは日本と同じようなおいしいパンがふつうに食べられていることも以前書いたが、ブリヤートのパンはライ麦を使うロシアの黒パンとは違う小麦のパンだった。
このパンに「ゾーヒー」と呼ばれるモンゴル特有の乳製品のクリームを塗って食べる。もともとロシア領に暮らすブリヤート人は、各家庭で小麦をこね、パンを焼いて食べるのが日常で、朝食はパンとタマゴとゾーヒーという組み合わせが定番なのだそうだ。
そして、モンゴルの代表的な料理で蒸し餃子のブリヤート風ボーズの登場。羊肉ではなく、牛肉を使い、タマネギや豚のラードを塩胡椒で軽く味つけしたもので、モンゴルのボーズとのいちばんの違いは、ひき肉ではなく、包丁で粗く切り刻んだ肉を使うことだ。
ロシアの水餃子であるペリメニの場合、ミキサーにかけられたかのような肉の食感をほとんど感じさせない餡入りなのだが、同じロシア領内に住むブリヤート人のボーズの餡は、口の中で噛むほどにこれでもかと肉の食感を味わえる。このように同じ地域の住民でも、民族によって食の好みに違いが見られることは興味深いというほかない。
チェレンハンドさんは、モンゴル最東端に位置し、ロシアと中国の国境と接するドルノド県出身で、ウランバートルの大学に進学し、2010年代半ばからブリヤートレストランの経営を始めた。
「アンガラレストラン」の店内の壁には、大きな白鳥と1人の女性を描いた絵が飾られている。これはブリヤートの人々の祖先が白鳥であるという伝承を描いたものだ。
この伝承の舞台はロシアのバイカル湖で、ブリヤート人の多くはこの湖の周辺に暮らしている。ちなみにバイカル湖の西端から流れ出るのが、この店の名前となっているアンガラ川である。