即却下!「ワインのようなタオル」
──お二人のコントラストを象徴するエピソードとして、人気タオル「コットンヌーボー」の誕生秘話がありますよね。ワイン・ボジョレーヌーボーのように、年ごとの風合いを味わうというコンセプトで、前年に収穫されたオーガニックコットンだけで作られている。阿部社長と友人のプロジェクトデザイナー・佐藤リッキーさんのアイデアですが、当初は池内代表の猛反対にあったとか。
池内 阿部の提案通りにやっていたら、おそらく1年でおしまいになっていたと思います。毎年違うアイデアを出さないと成り立たないですよ。「今年の品質は悪いですけど買ってくれますか?」なんて商品は、お客様に対して失礼です。
阿部 そもそもは「農産物に均質性を求めることは正しいのか?」という疑問から生まれたタオルなんです。今でこそ、プロジェクトとして評価されていますが、当初はサプライチェーン全体ではなく、製品の視点のみで考えていました。「ワインみたいに売ろう」という安易な発想ではありますが、タオルの原材料も農産物なんだよと気づいてもらうきっかけとして、世に送り出したいと提案したんです。
池内 でも僕たちは綿を作っているわけじゃない。タオルを作っている。もちろん、タオルにおける綿は相当重要ですけれど、それが全てじゃない。食材だけで味が決まるんだったらシェフは要らないでしょう。原材料の力をいかに引き出しカバーするかが、ものづくりのノウハウであり本質です。「原材料が違うから商品が違います」なんていうのは、プランナーの頭でしか考えていない馬鹿な話。阿部のプレゼンを受けて「そう言うなら、タオル屋を辞めて綿を作りなさい」とすぐに返しました。
阿部 まったく正論です(苦笑)。「コンセプトが薄っぺらい。表向きだけ綺麗で、続かないことをやってもしょうがないだろ。そもそも、糸は様々な時期に収穫されたコットンを混ぜ合わせて作られるから、年度ごとにきっちり分けるのは不可能」と手痛い指摘を受けました。
その後、幸運にも日本で流通していなかったタンザニアのオーガニックコットンを年度ごとに区切って管理できるようになり、実現に向けてググッと前進したんです。コットンを栽培する農家を応援するという社会的意義や、「結婚や出産年にちなんだ贈り物に」という価値を加えることで、ようやくプロジェクトとして成立しました。池内の言うことは「突飛なようで正しい」と、身をもって実感した出来事でしたね。
池内代表の『自由なアイデア』と、阿部社長の『緻密な思考』。正反対の資質による化学反応は、これからどんな発展を遂げていくのか。後編では、イケウチオーガニックが、消費経済社会の価値観をひっくり返すことを目指して掲げた「未来の航海図」について2人が語る。
(本記事は、事業承継総合メディア「賢者の選択 サクセッション」の記事前編を編集しています。)