「絶対に社長」採用時から決めていた
──阿部社長を承継者に見据えたタイミングはいつだったのでしょう?池内 正社員として雇うと決めた、その時からです。うちのような中小企業には、経営者としてのキャリアを積んだ人材がいません。だから息子に継がせることになるわけです。
阿部は大学できっちり教育を受けたかはわかりませんが(笑)、在学中の4年間で十分に学び遊んでいるし、証券会社やアパレルで働いた経験がある。しかも、うちが取引先の煽りで連鎖倒産し、再生の途上にあるにも関わらず入社の意思を示してくれた。非常にありがたい人材でしたね。「絶対に経営者になってもらわねば」と初めから決意していたので、社長にしないと自分の気持ちが収まりませんでした。
阿部 社長前提での採用とは想像さえしませんでした。職がなくてぶらぶらしている時に、アルバイトで拾っていただいた身ですから。「いつかは経営者に」だなんて、おこがましくて考えたことすらなかったですね。
タオル界のスティーブ・ジョブズ
──阿部社長は就任後のインタビューで「代表とはタイプが違う」とおっしゃっていましたね。池内代表も同じお気持ちですか?
池内 ええ、正反対です。「よくそんな判断できたな」と感じることもあります。阿部は阿部でそう思っているでしょうし(笑)。
阿部 私にとって、池内はスティーブ・ジョブズです。起業してブランドを打ち立てた人間は、事業にかける熱量の桁が違う。私は起業家精神など、ファウンダー(※創業者)特有の資質がゼロなんです。私から見ると池内の判断は非常に突飛なのですが、本人にしてみれば至極まっとう。そこが決定的に違いますね。
普通そこまでやる……?「食べられるタオル」
──池内代表の判断で、もっとも驚いたものは?阿部 アルバイト時から驚かされっぱなしです。イケウチオーガニックが目指すのは「最大限の安全と最小限の環境負荷」。私の前職は小売業で、ものづくりの業界に身を置いていたからこそ「この企業理念を真摯に追求した場合、会社としてやっていけるのか?」という疑問があったんです。でも実際に取り組んでいる方が目の前にいる。「ええっ、どうやって実現しているんだ」と感じたのがファーストインパクトでした。
イケウチオーガニックは、自社で使用する電力を100%風力発電でまかなっていますが、お客様にはまったく見えないし、製品にも何も反映されない。でも、企業理念に則って「やるんだ」と。我々のテーマは、創業120周年を迎える2073年までに「赤ちゃんが食べられるタオルをつくる」ですが、普通そこまでやるかと(笑)。でも「最大限の安全と最小限の環境負荷」を突き詰めたら、そうあるべきなんですよ、本当に。
それと、池内は思い立ったら即行動。私は「この案を通すためにはどうしたらよいか」と周囲を見て調整しようとするタイプです。でも、完全な調整なんて無理じゃないですか。結局「落としどころ」にしかなりませんし。
池内 阿部はものすごく緻密に考えますからね。僕は動いてから方法を考える。阿部が出すアイデアの中身は悪くないんですよ。なぜあんなに下手なプレゼンをするんだと首を傾げていますけど。
阿部 プレゼン、下手なんですよ。池内は消費者に届く言葉を持っている。ブランド認知度を上げる力があるんですよね。