ニッケルをめぐる両国の協力関係は当初成功していた。インドネシアがニッケルと労働力を供給し、中国が必要な技術と市場を提供する。これは理想的な組み合わせのように思われた。ニッケルは電気自動車(EV)のバッテリーの主要な原材料であり、ほかにステンレス鋼などにも使われる。
主に競争力の高いコスト構造のおかげで、インドネシアのニッケル産業は数年のうちに急成長を遂げ、世界市場で55%のシェアを占めるまでになった。インドネシアは2030年までにシェアを70%に高めることを目指している。
だが、ここへきていろいろな問題が持ち上がっている。その一つは、インドネシアのニッケル産業に投資している中国企業が、どうも利益だけに動機づけられているわけではないことがわかってきたことだ。
中国企業には、世界のEV生産を支配する中国の巨大な製造業部門向けに、ニッケルの安価かつ安定した供給を確保するという、もう一つの目的がある。むしろ、こちらこそ主な目的かもしれない。
中国との深い関係で失うもの
ニッケル相場はインドネシアによる大量の供給が重荷となっており、過去1年半で47%も値下がりしている。これは中国のEVメーカーにとってはよいニュースだが、インドネシア以外の国のライバル鉱山会社にとっては悪いニュースだ。そして、インドネシアの鉱山会社にとってもあまりよいことではない。問題はそれだけではない。中国の関与のために、インドネシアのニッケル生産業者は米国でシェアを拡大できなかったり、米政府の税制優遇を受けられなかったりする可能性があることが明らかになってきている。米国はEVをはじめ、中国がリードする新興技術分野で追い上げを図っているところだ。
脱炭素に向けて巨額の税制優遇や補助金を提供する米国のインフレ抑制法(IRA)は、カナダやオーストラリアなどインドネシア以外のニッケル生産国にチャンスをもたらす。これらの国のニッケル鉱山は、低コストのインドネシア・中国連合との競争によって操業休止に追い込まれたところもある。