経済

2024.03.19

「ニッケル」をめぐる新たな貿易戦争、解決策はレアアース危機時の日本の対応

ニッケル鉱(Shutterstock.com)

ニッケルの取引価格は2023年に急落したが、その後、事態は予想外の展開を見せている。ニッケルはめったにメディアの見出しを飾ることがない地味な金属だが、中国、米国、インドネシア、オーストラリアという4カ国の関係において、にわかにクローズアップされる可能性が出てきた。

ニッケルは、主にステンレス鋼やバッテリーの原料として用いられる金属だが、2023年には45%という大幅な価格急落に見舞われた。そのため、西側諸国の採掘会社は生き残りの危機に直面し、一方で、新たに生産を始めたインドネシアの企業はかなりの利益を手にしている。

金属材料に関しては、技術の進歩でより低コストな生産手段が登場すると、市場に変化が訪れるのが常だ。ニッケルもこうした経過をたどっている金属の1つだが、問題はそれだけではない。ニッケルの現状には、政治的・外交的な要素も関係している。

なぜならニッケルは、電気自動車(EV)に使われるような、何度も充電できる長寿命のバッテリーにとって重要な金属であり、気候変動の原因とされる化石燃料の使用量を減らす上で鍵を握る金属だからだ。

オーストラリア、カナダ、フランス領ニューカレドニアなどの国や地域でニッケル採掘事業を営む企業にとって問題なのは、これらの地域ではニッケル生産に多大な費用がかかり、インドネシア産のニッケルに、価格面で太刀打ちできない点だ。

さらに問題を複雑にしているのは、インドネシア産のニッケルは、大半が中国が開発した技術によって生産されており、中国に輸出されている点だ。そのため、インドネシアで生産されたニッケルの大部分は、世界最大のバッテリーおよびEV製造市場を擁する中国に吸い上げられてしまう。

インドネシア・スラウェシ島南東部ポマラー地区のニッケル鉱区(KAISARMUDA / Shutterstock.com)

インドネシア・スラウェシ島南東部ポマラー地区のニッケル鉱区(KAISARMUDA / Shutterstock.com)

西側諸国のニッケル採掘企業は、こうした状況について非難する声を上げている。インドネシアから中国に向かうニッケルは「クリーンではない」というのが、これらの企業の主張だ。その理由としては、採掘場所を確保するためにスラウェシ島などの島々で森を焼き払っていることや、生産のために使われる電力が、石炭火力によって発電されていることが挙げられている。

環境への配慮に関する認証を受けた「グリーン」なニッケルだけを取り扱う専用市場を立ち上げるという構想もあったが、この案は、ロンドン金属取引所(LME)などの主要商品取引所によって退けられてきた(なお、ロンドン金属取引所は、香港証券取引所が所有している)。

西側諸国のニッケル業界では、鉱山の操業停止が相次いでいる。オーストラリアの資源大手BHPなど主要な生産者では、今後さらなる閉山の恐れがある。これを受けて、オーストラリアと米国の政府間で、閣僚級会合が開かれる事態になっている。

その背景には、両国がニッケルを、クリティカルミネラル(重要鉱物)に認定しているという事情がある。つまり、幅広い産業にとって不可欠だが、中国側の勢力に独占されるリスクがある鉱物という意味だ。
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翻訳=長谷 睦/ガリレオ

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