この麺チェーン「シュルンドゥ」でもそうなのだが、では彼らは何を使って食べるかというと、これがフォークとスプーンなのである。
こういうところにも、中国ではなく、ロシアの文化が行き渡っているモンゴルの食の現在がうかがえるのだ。
だからといって、モンゴルの伝統的な食文化が失われているということではない。
地元向けの店ということで案内された以下の2軒は実に個性的な店だった。
まず地元の人たちに愛されている「フフウール・アイラグ・ゾーグ(Хөх-Үүр айраг зоог)」。この店でいただいたのは、豪華なモンゴル伝統料理の数々である。
メニューを紹介しよう。
(手前から時計回りで)
グゼーニサラダ(Гүзээний салат)羊の胃袋入りサラダ
ザルフーボーズ(Залхуу бууз)直訳は「レイジー(怠け者)ボーズ」(1つ1つボーズを包まないもので、赤羽のモンゴル料理店「アラル」で筆者は体験済み)
ホーショール(хуушуур) 羊のミンチ入り揚げパン
ウブチューニマハンズーシュ(Өвчүүний махан зууш)羊の胸肉のステーキ
トイゴニシュル(Тойгны шөл)牛すね肉のスープ
どれもウランバートルの人たちが愛する料理なのだそうだが、前出のガイド氏によると、この店は市内でもほとんど唯一馬乳酒(アイラグ)が味わえる店であることが人気の理由だという。
アイラグといえば、筆者はこれまで2度ほど草原のゲル(移動式住居)を訪ねたとき、遊牧民の人たちからふるまわれている。アイラグはなにより新鮮さが重要で、ウランバートル市内の店で出すには特別な搬送手段が必要だという。
そして、興味深いことに、店内ではチベット仏教の僧侶がわざわざアイラグを飲みに来店していた。前出のガイド氏の説明によると、「夏の間は肉を食べないという遊牧民の伝統的な食のスタイルを守る僧侶は、代わりに馬乳酒をはじめとした乳製品を口にする。だから、彼らはこの店にお忍びで来る」のだという。
もう1軒は、内装からしていかにもオーセンティックな店で「アルタンガダス・レストラン(АЛТАНГАДАС РЕСТОРАН)」。ゲルの内部をデコラティブに意匠化したモダンな店だった。店内には、チンギスハーンをはじめとしたモンゴルの英雄たちの肖像が並び、民族詩人や作家などのプロフィールを解説したパネルが飾られていた。
筆者が来店したときには、テレビでよく見かける社会評論家や芸能人たちが会食していたという。円安の今日、モンゴルは数少ない日本人の懐を悩ませずに旅行できる国ではあるものの、同店は東京と変わらない料金の店だった。
ウランバートルの食のシーンを、モンゴルの地元食を提供する店を中心に紹介してきたが、首都でもあるこの都市では、この国ならではの多国籍料理も見られる。モンゴルのさらなる多彩な食の世界について、これからも書いていこうと思う。