米連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長や欧州中央銀行(ECB)のラガルド総裁、中国人民銀行の潘功勝総裁には失礼かもしれないが、彼らの中に植田総裁のような立場になったことのある人はいない。
植田総裁は7月30日と31日に開催される日銀の政策決定会合で、市場が注目する利上げを実施し、25年間続いたゼロ金利と23年間続いた量的緩和(QE)を断ち切るかどうかを決断しなければならない。そして、その結果がどうであれ、その姿勢を維持しなければならない。
さらに悪いことに、考えられる以下の3つの選択肢のどれを植田総裁が選んだとしても、頭の切れるエコノミストたちは、それぞれについてニュアンスの異なる、抽象的な、説得力のある議論を展開することができる。
1. 何もしない
日本が景気後退を回避し、内需が低迷している今、引き締めを行う時とは思えない。中国がデフレを輸出し、ヨーロッパがつまずき、FRBが利下げを遅らせているという事実があり、植田総裁らは何もしないという決定をするだけの根拠がある。
2. 0.25%の利上げ
最近になって為替トレーダーが円を買い上げていることからもわかるように、これが最も人気のある選択肢だ。日本は金利政策を「正常化」する準備ができていると主張するエコノミストたちも、この選択肢を支持している。また、日銀が何もしなければ、円は1ドル=170円に向かって急速に円安が進むというシナリオを掲げる声もある。
3. 折衷案を採用
この選択肢では、植田総裁らが金融政策を大きく転換することなく、債券や株式の買い入れ額を減らすことなどが考えられる。見通しがはっきりしない現在の状況を考えると、このルートを選択する可能性が最も高いのかもしれない。
このどれを植田総裁が選択するにせよ、彼は鏡に写った自分を客観視する必要がある。2023年には利上げの機会が無数にあった。そのたびに、植田総裁は利上げを見送った。そしてそのたびに、ヘッジファンドは円を空売りしても大丈夫だと考え、円は下落した。
後悔しているのは植田総裁だけではない。金利の正常化について最も考えを巡らせていたのは、前任の黒田東彦元日銀総裁だった。彼は、2013年から前例のない方法で日銀のバランスシートを拡大した当の本人だ。
黒田元総裁の指揮の下、2018年までに日銀のバランスシートは5兆ドル(約770兆円)に膨れ上がり、日本経済全体の規模を上回った。しかし当時の日銀は、超大規模な量的緩和からの出口を描くことはしないまま、植田総裁にバトンタッチした。
では、植田総裁はどうすべきなのか? それは誰にもわからない。おそらく、植田総裁や日銀の他の幹部たちもそうだろう。