やりたいことは自分で掴みに行く
2006年の集英社への入社後も、新しい発想や工夫でキャリアを切り拓いてきた。林にとっての転換点は、入社2年目で「ジャンプスクエア」の創刊に携わったことだ。「新創刊で、上司も好きなことをやらせてくれるタイプの人だったから、自分でやりたい企画を立てることができたんです」
例えば、ゲームを取り上げるページが空いていると聞き、ファンだった芸人のバナナマンが毎月ゲームをする連載企画を立てたことがあった。バナナマンがちょうど売れる直前で、運良くスケジュールに差し込めたのだという。
「単に新作ゲームを紹介するだけのページにすることもできたけれど、それでは面白くないのでなにかユニークさを出したいと思ったんです。結局その連載は、バナナマンさんがあまりにも忙しくなって時間が取れなくなるまで、3年ほど続きました」
漫画編集者はキャリアを積んで先輩になると、新人作家との出会いが少なくなる。漫画賞や持ち込みなどからの新人作家の発掘の仕事は、若手編集者に譲るからだ。そんな中堅編集者になった林は、自ら美大や芸大を訪ねて新人の発掘に勤しむようになった。
「年次を重ねると後輩の指導に回る編集者が増えるのですが、僕はもっといろいろな才能に出会いたいと思いました。漫画編集者は自分一人で完結する仕事ではなくて、そもそも才能に出会わなければ、良い仕事は絶対にできない。自ら全国美大芸大キャラバンを企画したり、漫画の描き方の授業を開いたりしながら、開拓していきました」
多くの才能に出会いながら、編集者として一貫して目指してきたのは「世界に届く、世界に残る作品」だ。
「何かを判断するときは、『これは世界に届くのだろうか』『世界に残るのだろうか』と考えて決めてきました。世界中で売れる作品がつくれれば、作家さんに大きな利益をもたらすことができます。そうした作品がつくれれば、作家さんを少しでも幸せにできますから」
いっぱい考えて、いっぱい動く
話の端々から感じる印象どおりに、新しいことに挑戦したり、新しい情報を取り入れたりすることが好きだと語る林。一見仕事に関係しないように思えることでも、のちに役立つことは多くあった。「幼いころ、親が苦い顔をする中で読み続けていた漫画は、大学受験には何の役にも立たなかったけれど、就職してそれが職務に変わった途端にすべて武器になりました」
また、バナナマンの連載をしていた時期には必ず誘われたライブには行くと決めていて、勉強になったのだという。
「バナナマンさんはコントに登場するキャラクターの立て方がうまく、振る舞いがリアルなので、細かな部分を観察して漫画づくりに生かしていました」
2024年3月には、『SPY×FAMILY』が連載開始から5周年を迎えた。10月には『ダンダダン』のTVアニメもスタート予定で、目まぐるしく走り続ける日々だ。タスクは山積みだが、機械のようにこなしていくうちに何だか楽しくなってきて、勝手にやる気が湧いてくるのだそうだ。
「いっぱい考えて、いっぱい動くといいですよ。そうすると結構楽しいです。その分疲れますけど、おすすめです」