これまで、生命の維持に必要な酸素は、植物や藻類などの光合成生物によって生成されるものと考えられていた。しかし、深海観測機が示したデータは、光が到達しない暗黒の海底で酸素が生成されていることを示唆していた。
「このデータを最初に見たとき、センサーが故障したと思いました。なぜなら、これまで深海の研究で私たちが見てきたのは、酸素が消費されるところではあっても、生成されるところではなかったからです」とスイートマンが声明で述べている。「実験室に戻ってセンサーを再調整しましたが、あれから10年間、この奇妙な酸素のデータは表示され続けています」
スイートマンらは、ハワイとメキシコの中間にあるクラリオン・クリッパートン海域で、光学センサーを使い船舶によるフィールドワークを行ってきたが、この酸素と思われる発見物をさらに詳しく調べるために、別の手法を用いることにした。チームは海底に形成された発電力をもつ自然鉱床によって酸素が生成された可能性があるという理論を立て、電気化学的な実験を通じてそのアイデアを検証しようと考えた。
深海の「ジオバッテリー」
これらの実験が同じ結果を返したとき、「誰も考えたことのない画期的な何かに近づいていると感じました」とスコットランド海洋科学協会教授で、海底生態学と地球生物学の研究グループを率いるスイートマンは語る。スイートマンは国際的研究チームとともに、7月22日にNature Geoscience誌で研究成果の詳細を発表した。彼らはこの研究が、天然の酸素を生成する「geobattery(ジオバッテリー)」の証拠を示すとともに、深海における採鉱が海底の酸素源を破壊し生物多様性に影響を及ぼす可能性があるという懸念を提起していると語った。本研究には参加していない、カリフォルニア大学サンディエゴ校スクリップス海洋研究所の名誉教授で海洋生物学者のリサ・レビンは、この発見について、「まったく予想していなかった意外な結果であり、著者らはこの結果が本物であることを論文誌やレビュアーに納得させるために追加研究を行う必要がある」と語っている。
「この研究は、私たちが深海のプロセスをいかに理解していないか、発見すべきものがどれほど残っているかを如実に表しています。そして、深海の平穏を乱す人間の活動が、私たちがまだ発見すらしていないプロセスや機能、さらには生物種に影響を与える可能性が高いことも示唆しています」とレビンがインタビューで答えた。