それならどうすればいいかというと、自分が信じる未来を自ら創っていけばいいのです。指導者たるもの、先のことはわからないと言うばかりでは資質に欠ける。ニーチェは「偉大さとは、方向を与えることだ」という言葉を残していますが、指導者は常に方向を与えないといけない。
ただ、世の中の変化があまりにも激しいから、途中で軌道修正しないといけないことがあります。あるいは、やってみてすぐに「これは間違いだった」と直感的に思うこともある。だからいつも「策は三策あるべし」、です。A案がだめならB案、B案がだめならC案とフレキシブルに方向転換する。今の時代の経営者にはフレキシビリティが必要だと僕は思います。「成功とは達成できるまでやり続けることだ」という考え方は、今の時代には合いません。
半導体事業で地方と日本を活性化する
──2023年には台湾の半導体受託製造大手、力晶積成電子製造(PSMC)と共同で日本国内に半導体の工場を建設すると発表し、世間を驚かせました。半導体事業への進出は、どのような先見性に基づくものだったのですか。北尾さんは折に触れて「金融を核に金融を超える」と宣言していますが、やはりこれに沿った方針なのでしょうか。北尾:これは先見性というより、日本はこのままでいいのかという問題意識からです。
実は、半導体は地方創生と密接にかかわっています。半導体の工場を建設すると、その地域の雇用創出や所得上昇に大きく貢献することになり、ひいては日本の経済成長にもつながります。
安倍晋三さんがご存命中、地方創生なくして日本の成長なしとおっしゃっておられましたが、その通りだと思います。人口も企業も地方からどんどん減っていく。この問題を何とかしようということで、地域金融機関に対し、僕はいろんなかたちでSBIグループの経営資源を使って取り組んできました。そのなかで行き着いたのが、やはり地方に産業をつくらないと駄目だということです。
日本政府は、モノづくりを何とかしないと駄目だ、それには半導体が重要だと言い出した。この考え方は正しいと思います。やはり産業のコメから活性化していくことが非常に大事です。だから僕は、地方で半導体の事業をやろうと決めたのです。
とはいえ半導体の技術はもっていないから、どこかと組まないといけない。こういうとき、ありがたいことに僕にはいつも天助が訪れてくれるのです。 PSMCの黄崇仁会長と意気投合し、とんとん拍子で話が進みました。
台湾の企業と半導体の工場をつくりますと発表したら、31もの地方自治体から誘致活動がありました。やはり、地方が求めているのはこういったことなのだと痛切に思いました。最終的に、宮城県大衡村に工場を建てることになったわけですが、さまざまな地方銀行が「取引してください」とうちに来ました。ひとつのプロジェクトが、国家目標である地方創生と日本経済の成長の両方に寄与することになるわけです。