国内

2024.08.09 08:00

今、北尾吉孝が読み解く変化の兆しと3つの「キ」

SBIグループにとって決定的によかったのが、ベンチャー投資をやっていたことです。創業以来、次世代の成長産業への投資やベンチャー企業の育成に取り組んできました。例えば、ブロックチェーン技術を活用した次世代の送金システムを手がける米国のRipple Labsは、我々が外部筆頭株主です。また、我々は企業間取引での利用に特化したブロックチェーンプラットフォーム「Corda」を開発している米国のR3の外部筆頭株主でもあり、共同でSBI R3 Japanを立ち上げています。
 
事業は、早い、安全、低コスト、この3つが揃えば絶対勝つ。これらを可能にするのはテクノロジーです。だから僕はうちのグループの事業構築の基本観のひとつに「革新的技術に対する徹底的な信奉」を掲げているのです。

日本人は過去の栄光を忘れるべきだ

──日本の近未来をどう予見していますか。

北尾:日本については、何とかしないとどうにもならない状況です。1人当たりの所得が減り、日本人がどんどん貧しくなっている。
 
僕が慶應義塾大学やケンブリッジ大学で習った経済学では、為替は国力を表しています。先日、約34年ぶりの円安ドル高水準を更新しましたが、円安になるということは、つまり国が弱体化しているということです。
 
日本人は、過去のよき時代を忘れないと駄目です。もう一度、現実を直視し必死になってやっていた戦後の時代に戻らないといかん。しかし僕に言わせれば、多くの人がまだこの状況に気づいていない。ゆでガエル状態になると、気持ちがいいものだからなかなか変わろうとしない。だけど、今このタイミングで変わらないと大変なことになると思います。
 
人口減少は致命的です。この流れを逆転させることが、国家の最も大事なプロジェクトであるべきだと思います。人口が増えないのなら、ある程度の経験やバックグラウンドをもつ人たちにビザを与えて選択的移民を増やすべきだと僕は思う。
 
例えば、日本では介護士が不足しています。僕が日本の総理大臣ならインドネシア政府と話をして現地に日本での介護士を養成する学校をつくり、日本政府の補助のもと、日本語と介護を教えます。そして、一定の成績を収めかつ人物も優れた人たちに就労ビザを発給し日本に来てもらう。移民政策についてもう少し柔軟に考えない限り、ドラスティックに人口を増やす方法はないと思います。
 
事業戦略でも何でもそうですが、いつもキープ・イン・マインドしておかないといけないのは、できるだけ物事の本質を見るということです。これがいちばん大事。2番目に大事なのは、長期的に物事を考える思考力を有するということ。そして、多角的に物事をとらえること。人はつい自分の考え方がいちばん正しいと思いがちですが、物事を動かし理想の未来を創るには、人の意見や英知を結集することが不可欠です。


北尾吉孝◎1951年、兵庫県生まれ。74年、慶應義塾大学経済学部卒業後、野村證券入社。78年、英国ケンブリッジ大学経済学部を卒業。野村證券事業法人三部長を経て、95年、孫正義の招へいによりソフトバンク入社、常務取締役に就任。現在、SBIホールディングス代表取締役会長兼社長。

文=瀬戸久美子 写真=佐々木 康

この記事は 「Forbes JAPAN 2024年8月号」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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