というのも、Xで「行方不明(スペース)なりたい」とかで検索すると、いっぱい投稿が出てくるんです。「行方不明になりたい」というのは、「死にたい」とは別の感覚だと思います。完全にリセットしたいとか、自分の今ある文脈から解き放たれたいという願望は、昨今の異世界転生モノの流行にも通じるものがあります。
つまり、行方不明になった先がどうなっているかはわからないけれど、人は行方不明になりたいと考えている。異世界転生モノでも、転生した先でいろんな困難が待ち受けていることが多いですよね。
大森:ここ数年はSF界でも「ここではないどこかへ」というのがテーマですよね。ビジネスにおいてもSF思考(SF的発想で行う新しい未来予測手法)が流行っていますが、そうしたビジネスの文脈でも「ここではないどこかへ」はキーワードになっていると思います。
これも行方不明に少し近い言葉ですよね。それは、日本全体でなんとなく「このまま先に良いことはないんじゃないか」という閉塞感がある中で、「今じゃない、ここではない場所」みたいなものに憧れがある人が多いからではないでしょうか。そういう感覚が、「行方不明展」にもあるかもしれないですね。
植田:「優しい破滅願望」というか。すべてをぶっ壊したいわけではなく、自分だけに向けられた願望で「ここを変えたい」という気持ちは、多くの人が持っているものなのかもしれないですね。
──植田さんは「優しい破滅願望」、ありますか?
植田:やっぱりオダウエダは、ネタでめちゃくちゃなことをしたいというのが根底にあって。ただ、実際に街中で暴れたいというわけではないんですよ(笑)それを舞台上で表現しているのは、「優しい破滅願望」なのかもしれませんね。
あとは、私は芸人って時代を切り取って表現する側面があると思っているのですが、そういう意味では、我々みたいなめちゃくちゃなネタをやる芸人──先輩で言えばハリウッドザコシショウさんや野性爆弾さん、永野さんのような芸人も──が世の中に受け入れられているのも、「壊してほしい」っていう皆の願望なのかもしれませんね。
私も、ちょっとだけ壊してほしいんですよ。でも、全部なくなったら嫌なんです。わがままなんですよね。
梨:その風穴みたいなものが欲しいという感覚は、私もすごくありますね。本当にそのとおり、って今思いました。
大森:いわゆる「クズ芸人ブーム」も、わりとそこに近い気がしていて。実際に自分で、ギャンブルで身を滅ぼすとかとんでもないお金を使うというのは、無理だし勇気がない人が多いと思うんです。でもそれをやっている芸人さんを見ることで、なにか“救われた感”みたいなものもあるんじゃないでしょうか。