「Masakoと待ち合わせなんですが……」と伝えると、彼女はまだ到着してないから、ギャラリーで作品を見ながら待っていてはどうか、という。ホワイトキューブが二つあるギャラリーで、エントランスに近い方は中国の祭りの写真を中心に額装された作品が展示されている。
奥の方に入っていくと、存在感のある彫刻作品が5点ほど展示されていた。その中でも目を引いたのは、パフォーマンスアートのパイオニアであるマリア・アブラモビッチ(Marina Abramović)の作品だ。身体を使った挑戦的で過酷なパフォーマンスが特徴の彼女の作品がギャラリーの中央で存在感を示す。枕の上に尖った水晶がぶら下がっており目隠してその水晶の下で60分間過ごせというインストラクションが書いてある。二部屋だけのこぢんまりしたギャラリーにMOMAで見るような作品があり衝撃を受けた。
ブルックリンを拠点にアート財団等を通したアーティスト支援活動を行うMasako(斯波雅子)が到着し、このギャラリーについて、そして、オーナーのHong Gyu Shin(ホン・ギュ・シン、以下 シン氏)について教えてもらうと、さらに興味深い事実を知ることとなる。
シン氏は高校の時に韓国からアメリカに単身留学し、弱冠23歳でギャラリーを始め、著名なアートディーラーであるラリー・ガゴーシアンともオークションで競り合い(勝った記録が残っている)、ピカソなど巨匠アートも保有しているという。エントンランス近くの中国写真展もハーバード大学美術館から巡回してきたものであるそうだ。
Masakoのおかげで、彼のプライベート・コレクションを見せてもらうこともでき、さらに驚いた。私が大好きなアーティスト、リチャード・ハンブルトンの100号サイズの作品なども飾ってある。その奥には、ヨーゼフ・ボイスの作品や、マン・レイがプレイしたチェス、日本の写真家荒木経惟(アラーキー)の作品なども所狭しと所蔵されている。
単身アメリカに渡りわずか十年でアート市場の本場ニューヨークで地位を獲得し、活躍する彼に興味を持ち取材依頼を出したら快諾してくれた。前半となる今回は見知らぬ土地でどのようにして地位を築いていったのか、巨大アート市場アメリカに単身乗り込み成功への糸口を掴むストーリーと、ゼロイチでアートビジネスを起こした実績など挑戦するビジネスパーソンとしてのシン氏にフォーカスする。
後半となる次回はシン氏のモチベーションともなっているアーティスト発掘ストーリーをお届けする。異国の地で築いたアート業界での地位、アーティストや業界からの信頼を受けている彼の人となりを日本語で紹介できることを誇りに思う。