社会の解像度は上がっても──「発掘されていない問題」が
「社会の解像度が上がって、フォローの制度が整ってきて、『生きづらい』が減っているのは良い傾向だと思います。強く生きろ、という勢力はまだ残っているとは思いますが、『完全自殺マニュアル』を書いた時代ほどではないかな、と。ただ、まだまだ発掘されていない問題があるはずです。今はまだ問題と言われていないような問題が。
たとえば、現状の社会ではまだまだ気が強い人が有利です。対人関係でも敵わないことが多い。反対に、受け身で、気が弱い人は上手く成功できない面があります。
でも、気が強い人が有利だからといって、自分もそうなって解決しようというのは、私はあまり好きではありません。その方法では、世の中は変わっていきませんから。
幸い、時代が変わってきて、自分の弱さを受け入れる考え方も広まってきました。気楽に生きていくためにも、無理をせず、ありのままを大切にしていくのが、今は良いと思いますね」
『完全自殺マニュアル』から約30年、社会は良くなってきている、というのが鶴見氏の見解だ。これは朗報と言っていいだろう。
そして、私たちは更に良い社会を目指すことができる。ただそれ以前に、個人としてより良い生き方を選べるはずだ。『人間関係を半分降りる』は、そんな令和時代の人々に打ってつけの一冊である。
鶴見済◎1964年、東京都生まれ。東京大学文学部社会学科卒。複数の会社に勤務したが、90年代初めにフリーライターに。生きづらさの問題を追い続けてきた。精神科通院は10代から。つながりづくりの場「不適応者の居場所」を主宰。著書に『0円で生きる』『完全自殺マニュアル』『脱資本主義宣言』『人格改造マニュアル』『檻のなかのダンス』『無気力製造工場』などがある。
ブログ:鶴見済のブログ
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松尾優人◎2012年より金融企業勤務。現在はライターとして、書評などを中心に執筆している。