「常に最高のパフォーマンスを発揮しなければならない」(エンツォ・フェラーリ)
そのために12気筒エンジンを積むことは“最初”から決まっていた。1947年に会社が正式に発足する前から……。
アルファロメオのエンジンデザイナーであったジョアッキーノ・コロンボは、週末にミラノからモデナへお忍びでやってきてはホテルの一室でエンツォのための新しいエンジンを描いていた。1946年に描かれた設計図が今もフェラーリのアーカイブ管理部門(クラシケ)には残っている。フェラーリの名を冠した記念すべき1号車、125S用の1.5リットルV12エンジンだった。
以来、マラネッロに本拠をおく跳ね馬ブランドは常にV12エンジンをロードカーの中心に据えてきた。それがほとんど彼らのクルマづくりにおける核心であるかのように。
環境の変化に合わせて変わり続けることが企業の生命力として求められる一方で、歴史を敬い顧客の期待を裏切らないこともまたブランド力を高めるために必要だ。要するに革新と伝統をバランスよくプロダクトに反映できることがモノ造りを続ける企業の生き残る術ということだろう。
フェラーリのコアバリューを体現する新モデルが日本上陸
新型モデル、その名もドーディチ・チリンドリ=12気筒は、フェラーリにとって12気筒エンジンが伝統であり革新であることの宣言でもあった。新車発表に立ち会ったフェラーリ本社のヘッド・プロダクト・マーケティングであるエマヌエレ・カランドは「12チリンドリはフェラーリ社の過去と未来を繋ぐ全く新しいモデル」だと自信たっぷりに語る。
実際この新型車は未来志向のラグジュアリィな新デザインをまとうのみならず、新しい役目さえ与えられている。これまで12気筒エンジンを積んだフロントミドシップの2シーターベルリネッタ(クーペ)といえば、ブランドのフラッグシップモデルであった。47年の125Sから続くそれがマラネッロの流儀であった(いっときの中断もあったが)。
12チリンドリももちろん、ブランドを代表する最高のロードカーであることは間違いない。そういう意味ではフラッグシップであると言って間違いではないだろう。けれども同時にもう一つの役目を担う。
現在のフェラーリロードカーラインナップにあって、リアルスポーツカー寄りのリアミドシップカーたち(SF90や296GT)とグラントゥーリズモ寄りのフロントミドシップカーたち(ローマやプロサングエ)のちょうど中間、つまりブランドにおける最新の核心とは何かを、12チリンドリは体現しているのだ。