国際ビジネスの場で直面するコミュニケーションの難しさの背後には「空気を読む」日本のコミュニケーション文化が深く関わっていることを、この連載ですでにお伝えした。
日本語と英語ではコミュニケーション文化が大きく異なる。日本の「空気を読む」コミュニケーション文化は学術的にいうと「ハイコンテキスト文化」と分類される。
一方、英語によるコミュニケーション文化は「ローコンテキスト文化」と分類される。日本のコミュニケーションのように「空気を読む」必要性は下がり、行間をなるべく狭めたコミュニケーションとなる。
2文化のこういった相違を背景に起こるコミュニケーションの事故。具体的な原因にはさらに大きく分けて以下の2つあることも、すでに示した。
1.「海外側に空気を読んでもらうことを期待してしまった(本連載では「その1」で扱った桑野氏の2つの例、「その2」で扱った柳田氏の2つの例)」
2.「日本側が空気を読みすぎた(本連載では「その3(本稿)」で扱う沼野氏の例)」
本稿ではいよいよ2番目について、実際に沼野氏(仮名)の例を挙げて見ていこう。
参考>>日本人の残念なビジネス英語その1:桑野氏の「ハイコンテキストすぎた」納期設定
参考>> 日本人の残念なビジネス英語その3:「行間読んで失敗」の沼野氏
2.「日本側が空気を読みすぎた」:沼野氏の場合
沼野氏は海外のバイヤーと秘密保持契約を結ぶ際、コミュニケーションが難しくなりがちであることに悩んでいた。日系企業間であれば、秘密保持契約の内容やそれらの文言の背景も通説化されていていちいち説明しないで済むが、海外企業とのやり取りとなると、秘密保持契約の締結までに簡単に数カ月かかってしまうことがあり、取引開始までに時間がかかり過ぎるのだ。
この例をわかりやすくするために、背景を少し説明しよう。
沼野氏が勤務するZ社、日本のサプライヤー側が整えた秘密保持契約の書類には、一般的な内容の他に、通常の内容とは異なる文章が一文加えられていたのだ。
この一文は、担当弁護士が勝手に追加したなどではなく、過去の取引の際に特殊なケースが生じ、同じようなことを繰り返さないために「入れざるを得なかった」という。言い換えればZ社にとって、この一文は「削除できない文言」だったのである。