わかりやすいように日本語と英語を交えて説明する。英語は原文のままにしている。訳は直訳スタイルで訳している。
桑野氏の1つ目の例
メール文抜粋:
前のメールで述べた通り、時間が足りないので、至急(サンプルを)修正して再送していただけると幸いです。
(As I mentioned previous email, we don't enough time, so we really hope you would correct and resend us ASAP.)
上記の文章の「至急(ASAP)」という表現は、実は桑野氏のメールを見ていくと多用されている。桑野氏がスケジュールの遅延リスクを一生懸命軽減しようとしていることが読み取れる。
日本であれば、そして気心知れた取引相手ならば、「至急(ASAP)」という表現が持つニュアンスが「今日中」なのか「遅くとも明日中」なのかくらいの「行間」は読み取ってくれるだろう。
しかし、行間を日本人と同じようには読み取ろうとしないローコンテキスト文化においては、「至急(ASAP)」が今日中なのか、明日中なのかは情報として含まれていない。例えば送ったメールが金曜日であった場合、月曜日中でもいいのか、それとも土日での対応を求めているのかは伝わらないのだ。よって、「至急(ASAP)」で伝えたい緊急性のニュアンスへの「理解は相手に委ねられてしまう」。繰り返すが、これを学術的には、「行間が広くなる」と説明する。
ローコンテキスト文化に沿って、誰が読んでも同じように理解できるようにするためには、次のような表現にすると良い。
よりよいメール文:
前のメールで述べた通り、時間が足りないので、日本時間の30日午後5時までに(サンプルを)修正して再送していただけると幸いです。もしこの時間に間に合わない場合は教えてください。
(As I mentioned in the previous email , we don't have enough time, so we would like to receive sample pictures by 5 p.m. on the 30th, Japan time.
If you need more time, please let us know. )
このような表現だと「行間が狭く」なる。誰が読んでも日本時間の30日午後5時までという意味は同じであることから、行間はむしろ「ない」とさえ言えるだろう。
このような助言をしてからは、桑野氏のメールからはASAPという表現が一切なくなり、全てのメールで期日を入れるようになった。返信を必要以上に待ってしまい、時間のロスに繋がることが軽減されたとのことであった。
そもそも、この「至急(ASAP)」は相手を急がせる表現になり、ビジネスマナーの視点から、相手との関係性が成熟している必要があり、「急げ!」というニュアンスの言葉のやり取りが相手にとっては圧迫感を感じさせ、良好な関係を築くことを難しくさせる可能性がある。
加えて、ASAPではなく、as soon as possibleは「出来るだけ早く」という意味合いになるので、さらに行間が広がる。なぜならば「出来るだけ」というニュアンスが「至急(ASAP)」よりも行間が広がるからである。また、至急を英語に直すと「urgently」や「immediately」という表現があるが、取引相手に「今すぐ(やれ)」という事はASAPと同じようにビジネスマナーに反してしまうだろう。上手に相手に急がせるには目安となる期日を設け、間に合うかどうかを尋ねるような方法がより関係を良好にさせてくれるだろう。