同氏によれば、バルト三国やポーランドなど、ロシアと地理的に近い国々は、ウクライナ情勢の悪化に加え、ロシアの軍事的な挑戦が自国に及ぶことに危機感を強めているという。エストニアのカラス首相はメディアに対し、自国の兵士を自国の主権において、ウクライナ兵訓練支援の名目でウクライナに派遣する可能性にも言及した。ロシアがすぐに西方に戦域を拡大させる余力はないとみられるが、ウクライナ侵略に伴う戦域が西側に広がり始める予兆と言えるのかもしれない。
今回のプーチン氏の訪朝は、「戦域の東方拡大に向けた一里塚」になるのだろうか。ロシアは国連安全保障理事会常任理事国の座を明け渡す気はない。だから、制裁違反である北朝鮮によるロシアへの砲弾提供の事実も公式には認めていない。同様に、自分が制裁決議に賛成した北朝鮮の核・ミサイル開発を安易に支援することはないだろう。
ただ、複数の情報関係筋によれば、ロシアは工作機械のほか、石油精製品も数十万トン、北朝鮮に提供している。北朝鮮は3月、戦車部隊や空挺部隊の訓練を相次いで実施し、燃料不足がある程度緩和されている状況を見せつけた。北朝鮮が軍事的に一息つく状況は、日米韓にとって好ましい状況とは決して言えない。
一方、ロシアと北朝鮮の接近について、中国は現時点では距離を置いている。中国外務省の林剣報道官は13日、プーチン氏の訪朝について「論評は控えたい」とした。金正恩氏は4月、訪朝した中国の序列3位、趙楽際全国人民代表大会常務委員長と会談したが、両国メディアは安全保障協力などについては触れなかった。プーチン氏は5月に訪中したが、その足で平壌に向かうこともなかった。中国側が、中ロ朝の3カ国の協力関係を際立たせる事態を嫌がった可能性もある。中国にしてみれば、「核とミサイルを振り回す北朝鮮と同列に扱われたあげく、米国を刺激するような事態は避けたい」ということなのだろう。
現在、米国と中国の慎重な姿勢は、第3次世界大戦の発生を避けるうえで一定の役割を果たしているとも言える。ただ、プーチン氏は「ネオナチ」呼ばわりするウクライナから、手を引く考えは今のところない。プーチン氏は今回の訪朝を通じ、「ウクライナ軍によるロシア領内への攻撃が激しくなればなるほど、極東地域の安全保障もきな臭くなる」という構図を、日米韓に印象付けることに成功したと言えるだろう。
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