審査に参加した、世界のアール・ブリュット(正規の芸術教育を受けていない人によるアート)を牽引するアートギャラリーのオーナー、クリスチャン・バーストがその意義を語る。
──今回、世界28カ国924名から約2000点の作品応募がありました。二次審査では、一次審査を通過した60~70点の作品をほか3名の審査員(東京藝術大学長・日比野克彦、金沢21世紀美術館チーフ キュレーター・黒澤浩美、LVMH メティエ ダール ジャパン ディレクター・盛岡笑奈)と現物審査されたそうですね。
初回の開催にもかかわらず、海外から多数の応募があったこと、質の高い作品が多かったことに驚きました。
グランプリに値する作品が少なくとも10~15点はあり、それについては審査員全員がほぼ同意見でした。ただ、その中からグランプリを選ぶのは難航し、急遽、グランプリとは別で、審査員それぞれが選ぶ賞も設けることになりました。選びきれないという贅沢感を味わいました。
──国内からと海外からの作品に違いや潮流はありましたか。
今は表現がグローバル化しています。そのため、ほとんどのケースにおいてその作品が海外からなのか、国内からなのかはわからないですね。
ただ、そのためもあってか、審査員どうしの芸術観が火花を散らすような白熱した議論になりましたね。
今回設けた審査基準をどう定義するのか、アール・ブリュットとメインストリームアート(現代アート)の境界線をどこに定めるのか、そして我々が行っていることの本質的な意味とは何か。
アール・ブリュットと現代アートの境界線は、曖昧なんです。誰かが「これはアール・ブリュット、これは現代アート」と教えてくれない限り、きっと区別がつかないでしょう。一方で「アール・ブリュットはいまアート史に組み込まれている、まさにその瞬間にある」という点では全員の意見が一致しました。
つまり、アート史には、欠落している章があるのです。それは、メインストリームから外れた、周縁にいる人々によるアートのことです。20世紀初頭のパリではアフリカ美術や世界各地の美術がキュビズム、アーティストに影響を与えましたが、同時に「精神病患者の芸術」と呼ばれていたものも影響を与えていました。
しかしアート史ではこの後者の事実が触れられて来なかった。ようやくいま、新しい章として加わろうとしているのです。私たち審査員は、その新しい章に関わっているのだと強く確信しました。
──それは、アート界全体の動きにも通ずることですか。
そうです。いま世界の主要美術館であるMoMA、メトロポリタン美術館、オルセー美術館などで、アール・ブリュット作品がどんどん収集され始めています。
来年は、パリのポンピドゥー・センター(国立近代美術館や公共情報図書館を含む大規模総合施設)で、アール・ブリュットの大規模展覧会も開催される予定です。
こうした動きは、社会に大きな影響を与えるでしょうし、アート史における重要な転換点になると思います。
──アート界が転換点を迎えようとするタイミングで、「HERALBONY Art Prize」が開催されることも大きな意義がありそうです。
まさに。私も審査員として関われていることに、とても興奮しています。このアートアワードもそうですが、ヘラルボニーの企業としての取り組みは大変興味深いです。これまで私は作品を多くの人々に紹介するには、美術館に収蔵するのが一番だと考えていました。
しかし、ヘラルボニーのようにライセンス化・商品化を通じてアートを日常生活に落とし込むことも、とても大切なことです。多くの人々に身近に親しんでもらえますし、非常に相補的です。