アール・ブリュットの「ブリュット」にはフランス語で「生の」という意味があります。ただ、もうひとつ「貴重で手つかずの」という意味があるんです。金やダイヤモンドの形容詞としても使われます。
つまり、アール・ブリュットは純粋なものであり、創造の本質です。この2つ目の意味と共に受け入れられてほしいと強く願っています。
──2つ目の意味を聞くと、アール・ブリュットを「価値あるもの」として解釈しやすいですね。8月に東京で「HERALBONY Art Prize」の展覧会に期待する価値は何ですか。
アール・ブリュットの世界には、メインストリームアート以上の多様性があることを、皆さんに知ってほしいです。多様性という意味では、この展覧会はビエンナーレと似ているのかもしれません。先ほどもお話したように、アール・ブリュットは美術史を意識せずに作られた作品ですが、美術史の中で正当に評価されるべきもの。このアートアワードの開催により、その考えが広く浸透すればうれしいです。
「HERALBONY Art Prize」は2回目の開催も、さらに応募作品が増えるのは間違いないでしょう。「障害のある人」=「何かが足りない」ではない。彼らは私たちが持っていないものを持っている、より多くのものを持っている。新しいアーティストを発掘し、世に広めていけるのは、本当に楽しいです。
クリスチャン・バースト◎1964年、フランス・アルザス地方出身。出版社に勤務し、文学やエッセイの出版に携わる。2005年、パリ・バスティーユ地区に自身のギャラリーを開設。2010年、パリ・マレ地区にギャラリーを移転し、「ギャラリー・クリスチャン・バースト」と改名。2020年、アール・ブリュットと現代アートの対話に焦点を当てたスペース「ザ・ブリッジ」をオープン。世界最大級のアートフェア「アート・バーゼル」への継続的な出店実績を持ち、国際的なアートシーンにおいて幅広く活躍する。