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2024.06.17 18:15

星野リゾート代表、事業承継の舞台裏「ファミリー企業あるある」をどう乗り越えたか

「持論」と「理論」の違いだ。成功した経営者は数多くいるが、その人の持論にならった他の経営者が同様の成果を出せるとは限らない。一方、研究を尽くした理論は普遍的なものと言えるだろう。

経営一族の既得権益を正そうとしたら、家業から追放

帰国後、星野氏は星野リゾートに入社したが、社内の重大な問題に直面する。

「会社の公私混同体質です。会社の資産と経営一族の資産がごちゃ混ぜになってしまっていました。これは日本中どこでも、若い経営者が一番苦労する課題ではないでしょうか」

ファミリービジネスにおいて、しばしば見られる課題だ。「既得権益を得てきた経営一族」と「自分が貢献した分のリターンのみ得られるのが当然と考える若い経営者」との衝突が生じる。

星野氏は、身内である経営一族に対して「きちんと線引きをしないといい人材は集まらないし、企業の成長に直結する」と提言する。しかし、猛烈な反発を受け、わずか半年で辞めさせられてしまう。時はバブル経済真っ盛り、1989年のことだった。

父と対立、勝敗はギリギリだった

「辞めさせられた当初は『もう戻ってこない』と思っていました。僕が辞めた後、21人いた株主たちも様々なことを考えたようです。結果的には、社外の同族株主たちの後押しによって復帰することになりました」

星野氏が辞めさせられたことで、同族間に社内の問題が広く知れ渡った。社外の同族株主たちの注目が集まり、星野氏を復帰させようという機運が作られた。追放から2年の月日が流れていた。

復帰も、すんなり進んだわけではない。

「社長職への就任と役員の交代を要求しましたが、賛成してくれたのは50数%と、ギリギリの勝利でした。しかも3代目である父はあちら側(反対)ですからね。採決されたとき、父は立ち上がって『お世話になりました』と言って出ていきました」

本来なら同じ方向性に向かって歩んでいくはずの、父と子のすさまじい対立。ただ、その後、星野氏は「実権は新しい経営陣が握っているとはいえ、長く経営してきた父を離反させても仕方ない」と、1年かけて先代を説得して会長職に就任させ、雪解けにこぎ着けた。
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