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2024.06.20 14:30

インパクトビジネスを駆動させる「トリプル・インパクトの追求」

インパクト創出のための3つの視点

インパクトビジネスを創造して変化を生み出すために、ここからはインパクト創出企業の分析から得られた3つの視点を共有したい。
 
ひとつは、「トリプル・インパクトの追求という感覚」だ。インパクト投資の世界で、金融側の視点では、「財務的インパクトと社会的インパクトの追求(ダブルボトムライン)」ということが重視される。しかし、企業側の視点で事例を見ると、「ステークホルダーインパクト」を足し合わせた「トリプル・インパクト」を希求しているケースが多いことに気づく。
 
従業員、取引先、消費者、株主までを巻き込んで、彼ら自身の意識や行動の変化も戦略設計のなかに組み込んでビジネスや経営を設計している。「ステークホルダーを通じてインパクトを生み出す能動的な意図」が垣間見えるのである。それは、単純に従業員や株主に配慮にする、というような旧来型のステークホルダーマネジメントとは少し違う。その意図が結果として財務的社会的インパクトもスケールさせる相乗効果をもたらしている。
 
次に「トレード・オン発想からの事業創出」だ。ビジネスの世界も、市場の価値判断も、私たちはともすると「トレード・オフ」の考え方で生きてきた。〇〇を重視するなら、〇〇はあきらめないといけない、というような考え方である。

しかし、インパクトビジネスでは、「トレード・オン」の感覚がきっかけとなって成功している事例が多い。例えば、障がい者が自分のペースで働くということと、迅速量産型でアートビジネスを展開するというふたつの要素をライセンス契約モデルによってトレード・オンにしたヘラルボニー社のように、テクノロジーや新たなビジネスプロセスを組み合わせることで「トレード・オフ」を「オン」にすることをあきらめない姿勢が成功を生んでいる。
 
3つ目が「NPO的要素をスケールアップの段階で仕組む」である。パタゴニアはサステナブルなブランドとして有名であるが、同時に1%for the PlanetというNPOを創設し、100カ国以上から5000社以上の企業が参加する環境保全のムーブメントプラットフォームも生み出している。大きなムーブメントは個社では生み出しにくく、NPOのプラットフォーム性が生きてくる。そしてこの取り組みは、結果としてパタゴニアのブランディングにもつながっている。
 
さらに、パタゴニア創業者イヴォン・シュイナードは、パタゴニアが環境に優しい企業であり続けるために、自身の株をNPOがもつように譲渡したことでも知られている。こうした従来の発想とは違ったNPOの活用が今、世界のインパクトビジネスの領域では進んでいる。
 
これからの主流となるインパクトを創出するビジネスは、単純にひとつの法人のビジネスモデルを超えて、投資家、経営者、従業員などのステークホルダーや支援者が一体で社会を変えるひとつのプラットフォームとなっていく。そんな世界観が今後広がっていく期待もある。
 
私たち至善館も24年4月から「スタンフォード・ソーシャルイノベーション・レビュー 日本版」の運営法人となったことも生かしながら、日本で最先端のインパクト・ビジネスの知見が体感できるプラットフォームを生み出していきたいと考えている。みなさんも投資家、経営者、従業員、支援者、どの立場からでもインパクト・ビジネスにかかわってみてほしい。きっと自分の未来に違う可能性を見いだすと思う。


鵜尾雅隆◎大学院大学至善館副学長、至善館インパクトエコノミーセンター所長。JICA、外務省、NPOなどを経て、2009年に日本ファンドレイジング協会を創業し、現在代表理事。そのほか、Global Steering Group for Impact Investment(GSG)日本副委員長など。

文=鵜尾雅隆

この記事は 「Forbes JAPAN 2024年6月号」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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