気候・環境

2024.06.14 17:45

環境負荷の少ない融雪剤、融氷剤を大阪公立大学が発見

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大雪が予想されると、道路に大量の融氷剤(融雪剤)が撒かれる。また空港の滑走路や飛行機の機体にも雪が付着して凍るのを防ぐ薬剤が撒かれる。これらは交通の安全を守るうえで大切なものながら、じつは環境への影響が大きい。だが、大阪公立大学の研究により、より効果的で環境負荷が低い融氷剤の可能性が見えてきた。

融氷剤には、ホームセンターなどでよく売られる、道路や家の外階段などに撒く白い粒々がお馴染みだが、鉄道や飛行機に散布するものもある。一般的なのは、おもに安価な塩化ナトリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウムなどの塩化物。空港の滑走路に使われるのはやや高価な酢酸ナトリウムやギ酸ナトリウムなど、金属を腐食させにくいものだ。さらに飛行機の機体に散布されるのはプロピレングリコールやエチレングリコールなどの有機溶媒。これらをコストや用途に応じて使い分けている。

塩化物系は大量に撒いて土壌に流れれば、植物を枯らせたり土を固くする悪影響がある。また金属を腐食させる。酢酸ナトリウム、ギ酸ナトリウム、有機溶媒は自然界で分解されるが、その際に大量の酸素を消費するので、海などに流入すれば水棲生物に害を与える。そのため、環境負荷が少しでも小さい融氷剤が求められている。
融氷実験装置の模式図。

融氷実験装置の模式図。

大阪公立大学の大学院生、伊藤魁氏をはじめとする研究チームは、新しい融氷剤を研究するにあたり、まず、融氷剤が氷を溶かすメカニズムの解明から始めた。まず、21種類の塩の水溶液と16種類の有機溶媒の融氷メカニズムを分析したところ、それぞれメカニズムに違いがあることがわかった。まず、融氷剤は氷表面の水の層に溶け出して水が凍る温度(凝固点)を下げる。だが、ただ凝固点を下げれば効果が上がるわけではなく、氷や雪の内部に入り込み、内部から溶かす浸透力も重要だった。結果として融氷剤の融氷メカニズムは、凝固点の降下、融氷剤と水分子の相互作用、氷結晶へのイオンの浸透の3つだと解明された。
本研究で提案した融氷剤と市販品との融氷能力の比較(融氷剤滴下30分後)。

本研究で提案した融氷剤と市販品との融氷能力の比較(融氷剤滴下30分後)。

さらに、塩化物系と有機溶剤系を組み合わせることで効果が高まることを突き止め、それらの組み合わせについて機械学習を駆使して調査したところ、市販されている6種類の融氷材よりも性能が高く、環境負荷を大幅に減らせる組み合わせが発見された。それは、比較的環境負荷の小さい有機溶媒プロピレングリコールと、ギ酸ナトリウム水溶液との混合物だ。この2つの相乗効果により、非常に高い浸透力が示された。

この混合物は「典型的な塩素系融氷剤にくらべて腐食作用が低く、有機系融氷剤にくらべて酸素消費量が少ない」ため、除氷、防氷作業の簡便化と、融氷剤の使用量削減による環境負荷の低減が可能な融氷剤の開発につながると研究チームは話す。

プレスリリース

文 = 金井哲夫

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