ヘルスケア

2024.05.21 11:30

血液検査で最大7年早くがん発見の可能性、予防治療法の開発に期待 英研究

安井克至
1393

Shutterstock.com

血液中のタンパク質の組み合わせを調べることで、現在の診断方法より最大7年早くがんを発見できる可能性があるとの研究結果が発表された。複数の異なる種類のがんを早期に発見でき、がん発生を予防する標的治療の実現につながるかもしれないという。

英科学誌ネイチャー・コミュニケーションズに掲載された、英オックスフォード大学公衆衛生学部のチームが主導した研究論文2本を紹介する。

5月15日付の論文では、英国バイオバンクに登録された4万4000人以上の血液サンプルを、プロテオミクス(プロテオーム解析)という手法で分析した。プロテオームとは細胞内で発現する全タンパク質の総称で、生体サンプルに含まれるタンパク質の質量を測定し、得られた膨大なデータを機械学習を用いて解析することでタンパク質の変化を検出できる。この研究対象には、のちにがんと診断された約5000人の血液サンプルも含まれていた。

研究チームは、がんを発症した人としなかった人の血中タンパク質を比較した。19種類のがんに焦点を絞り、1463種類のタンパク質を精査したところ、618種類のタンパク質ががんリスクとの有意な関連を示した。

驚くべきことに、がんとの関連が示されたタンパク質のうち107種類は、がんと診断される7年以上前に採血された血液サンプルから検出可能だった。また182種類のタンパク質は、がん診断の少なくとも3年前までに変化が確認された。これは、従来の方法よりもはるかに早期にがんを検出できる可能性があることを意味している。

「がんを予防するためには、発生初期の促進要因を理解しなければならない」と、2つの研究に携わったオックスフォード大学のルース・トラビス教授は話している。「これらの研究は、複数のがんの原因や生物学的性質について、がんと診断される何年も前に起こっていることに関する知見も含め、多くの新しい手掛かりを提供している点で重要だ」

4月29日付のもう1つの論文では、30万件のがん症例の遺伝子データを調べ、がん発生と関連のある特定のタンパク質を同定した。研究チームは、9種類のがんのうち少なくとも1つのがんの発生と関連しているタンパク質40種類を発見。このうち21種類は乳がんの発生リスク上昇と関連していた。

少なくとも1種類のがんとの関連がわかったタンパク質40種類のうち、18種類はすでに既存の薬剤の標的となっており、従来の診断時期よりも早期に、場合によっては数年前にがんを発見し、治療を開始できる可能性が出てきた。

この研究に資金を提供した王立がん研究基金の研究・イノベーション担当エグゼクティブディレクターであるイアン・ファルクス博士は、「がんを予防するということは、がん発生の最も初期の兆候に警戒するということ。つまり、最も注意を払うべき分子シグナルを見つけるための集中的かつ綿密な研究が必要となる」と説明。「今回の研究における発見は、予防療法の提供につながる重要な第一歩となる。予防医療こそ、人々ががんの恐怖から解放され、より長く、より良い人生を送るための究極の道だ」と語った。

ただし、がんと関連の示されたタンパク質を標的とした薬剤を健康な人に投与すると副作用を引き起こす恐れがあるため、予防治療標的としてのタンパク質の有用性を評価するにはさらなる研究が必要だと研究チームは指摘している。

forbes.com 原文

翻訳・編集=荻原藤緒

タグ:

ForbesBrandVoice

人気記事