誰か近づいてきた!と睨むように振り返ると、そこにいたのは5歳ぐらいの男の子。チェーンの錆びきった三輪車に乗ってニヤニヤしながら「¿De dónde eres?(どこから来たの?)」と話しかけてきました。
この定番のスペイン語の質問にも答えることができない僕は、苦笑いで自転車を指さしてジェスチャーでパンクを伝えてみるも、今度は僕の周りをぐるぐる周りながら質問攻め。唯一知る単語「japonés!(日本人!)」を笑って連呼するしかなく、ようやく20分後、パンク修理を終えて再び出発しました。
すると、あろうことか男の子が三輪車でついてくる...。どうやら僕の自転車を随分気に入ってくれたらしく、伝わるはずのない日本語で「一緒に行くかい? アルゼンチンの南端まで!」と聞くと、彼はニコニコしてうなずくのです。思わず笑みがこぼれたところに、ようやくお父さんらしき人が呼び戻しにやって来て、彼は笑顔で「Adiós !!(じゃあね!)」と手を振って、キコキコと帰っていきました。
僕も「Adiós...」とつぶやき走り始めたこの時、張り詰めていた気持ちが和らいでいたことに気づきました。国・文化は違えど、心温まる家族の日常があり、人の暮らしの根本は普遍だと。
お礼も言えず、名前を聞くこともできなかった少年とのほっこりする出会いに感謝しながら、「tranquilo(トランキーロ=落ち着いた)」な旅を楽しむ準備ができた僕は、予定通り観光地を訪ねながら、南へと向かいました。
とは言え一方で、野宿するのに危険を感じ、少しでも安全な場所を探して、消防署に行き着く... といったことも。消防署はそうした自転車旅人たちの野宿スポットにもなっていて、僕もたくさんお世話になりました。
やはり身の安全には常に十二分に注意する必要があります。
タコ、テキーラにビール 食文化も豊か
キリスト教カトリックが主な宗教であるメキシコでは大都会から田舎町まで教会が多く、キオスク、広場とセットで建てられており、市民の憩いの場となっています。ベンチで休むおじさんや学校帰りの学生、様々な屋台などで賑わっていて、そんなメキシコの人々の日常に紛れ込むのが好きで、用もなく広場へと向かい、トランキーロな時間の流れを楽しむこともありました。
食文化も一変。アメリカでは小麦だった主食が、ここではトウモロコシに。
古代より中央アメリカを支えてきたこの穀物は多大な影響力を持ち、時に神格化までしたメソアメリカ文明の王家では、頭の形をトウモロコシに寄せるために、幼少期に頭部に装具をつけて細長く成長するようにしていたこともあったほどだといいます。
大人気「taco」もたくさん食べました。(屋台で買ったtacoでおなかを壊す、なんてこともありましたが...)
トウモロコシでできた薄い生地「トルティーヤ」に炒めた具材をはさんで半分に折りたたんだもので、日本では複数形の「タコス」という呼び名のほうが馴染んでいるでしょうか。
アガベという植物から作られる蒸留酒「テキーラ」もメキシコを代表する文化の一つですね!
原産地・テキーラの街には酒瓶の形のバスが走っていたりしました。アガベはサボテンの仲間・多肉植物で、高地の乾燥地帯でも大きく育ち、時には人の背丈を越えるものもあるんですよ。
あと、ビールもよく飲まれていました。街では「TECATE」というビールがどこにでも売られていて、あっさりしていて飲みやすかったです! 世界中で人気のメキシコビール「Corona」ももちろんメジャーで、ユカタン半島のリゾート地でよく目にした印象でした。
中央高原、ユカタン半島は世界遺産の宝庫
街並みの美しさから「西部の真珠」と呼ばれるメキシコ第2の都市・グアダラハラ(標高約1550m)や、日本企業も多く進出している商工業都市・グアナフアト州のレオン(標高約1800m)など、大都市は中央高原地帯に集中しています。どこも標高が高く、首都のメキシコシティに至っては標高約2240m。飛行機から降りた途端に高山病になる人もいるといいます。中央高原地帯にはスペイン植民地時代に採掘された銀を輸送した「銀の道」が走り、そのルート上で発展した街に次々と豪華な装飾の教会や美しいコロニアル建築の建物が建てられていったそうです。
メキシコには現在35件もの世界遺産がありますが、メキシコシティとその周辺だけで7件、中央高原北西部に10件、南東側の天使の街・プエブラからオアハカにかけて4件、そしてユカタン半島エリアに6件の世界遺産があるんですよ!
下のインスタグラム3・4枚目の、チョルラの丘の上に建つロス・レメディオス聖堂では、教会の美しさと古代文明の面影を感じることができました。
もともとこの地には、先住民たちの手によってつくられたピラミッド(大神殿)があり、その大きさはメキシコの遺跡の中でも一二を争うほど。その頂上にスペイン征服後に建てられたのがこの教会で、現在でも周辺に遺跡群が残っています。
ユカタン半島に入ると、高原部とはまた違ったメキシコの一面が見られます。
熱帯植物の生い茂るジャングル、そして森の中にたたずむ状態の良い遺跡はまさにロマンそのもの。探検家のような気分で古代文明を感じることができます。
ユカタン半島はその陸地のほとんどが石灰岩からできており、雨水などは地中に吸い込まれていきます。結果、大きな川などが形成されず、代わりに地面が陥没してできる地下洞窟湖「セノーテ」が点在しています。
このエリアではマヤ文明が栄え、その古代から「聖なる泉」として親しまれてきました。
気温40度近くの平野に現れるオアシスは抜群の透明度で、心も体もリフレッシュすることができました。