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2024.07.21 14:15

メキシコのカラフルな風景・動物たちと、トランキーロな文化|元イルカトレーナーの自然・文化遺産めぐり


多種多様な動物たちが生息 古代文明との関連も

野生動物たちと多く出会うことができるのも、大きな楽しみの一つです。

ホエザルに、アメリカワニやグリーンイグアナといった爬虫類もいれば、ヒメコンドルにメキシコの国鳥でありハヤブサ目で最大級の「カンムリカラカラ」といった猛禽類も多く生息しています。
アガベ畑の上空を舞い、餌を探すヒメコンドル(テパチトラン)

アガベ畑の上空を舞い、餌を探すヒメコンドル(テパチトラン)

左:ホエザル(パレンケ国立公園) 右:カンムリカラカラ(テワカン)

左:ホエザル(パレンケ国立公園) 右:カンムリカラカラ(テワカン)

左:オレンジムクドリモドキ 右:アオマユハチクイモドキ(ウシュマル遺跡)

左:オレンジムクドリモドキ 右:アオマユハチクイモドキ(ウシュマル遺跡)


ちなみに、メキシコの国旗にはワシが描かれていますね!

「蛇を咥えたワシがサボテンの上に止まったその地に都を築きなさい」というアステカの建国伝説に由来したもので、ワシが止まった場所は現在のメキシコシティに当たります。
メキシコ国旗(Photo by sitox/Getty Images)

メキシコ国旗(Photo by sitox/Getty Images)


ただ実際にメキシコで最も多く出会った動物は、断トツで野犬で、見ない日はなかったほどでした。自転車旅人にとっては少しやっかいで、走っていると吠えながら追いかけて来ます。

現在メキシコに犬は2300万匹おり、内70%が家のない野犬だそうです。

ここまで多いのには様々な理由が考えられますが、去勢をしている個体がほとんどいないことも要因の一つと考えられます。結果としてほとんどが雑種と思われる野犬が、ファミリーでぞろぞろと歩いている姿もよく見ました。

野犬のロードキルへの対策を──

今回この野犬たちについて、お伝えしたい問題があります。

野犬の問題と聞いてまず思いつくのは、狂犬病でしょうか。実はメキシコは、2019年に米州初の「狂犬病清浄国」としてWHO(世界保健機関)により認定されています。過去、1990年には犬から感染した狂犬病の症例が60件報告されていましたが、政府により無料集団ワクチン接種などの撲滅キャンペーンが施され、1999年に3件、2006年には0件となり、その後現在に至るまで確認されていません(犬以外の家畜や野生動物との接触による人の狂犬病の発生は少数件報告されています)。

気になったのは「ロードキル」、道路での野生動物の死亡事故です。

これまで多くの動物たちが無残にも車に轢かれて亡くなっている姿を見てきましたが、メキシコでの野犬のロードキルは桁違いで、野犬を見ない日がないように道路上で亡くなっている野犬を見ない日もほぼなかったです。10匹以上目にした日もありました。

動物注意の標識は、アメリカやカナダ同様にメキシコでも設置されていますが、ジャガーやクモザルなどの希少動物、利益を生むような動物への注意呼びかけが主で、路上で最も多く見かける野犬についてのものではありませんでした。

数が多すぎて、どうにもできないと諦められているのか、減ってほしいと思われているのか......。真意はわかりませんが、「防ごうとする」意識はさほど感じられず、命が奪われ、それをなかったかのようにされてしまうのは、元動物飼育員として心が痛みます。

確かに生態系の健全化、回復においてリソースも限られた中で、希少動物、高次捕食者の保護は優先されるべきかもしれません。しかしながら、生物多様性は「生態系」「種」「遺伝子」の3つのレベルで捉えられ、それぞれにおいて保持されることが重要です。種や遺伝子のレベルで数が少ない生物だけを保護するのでは、生物多様性は崩れてしまいます。

僕たちは人への被害や感情移入のしやすさなどで、生物保護の線引きをすることが往々にしてあります。今回の僕の野犬のロードキルに抱いた疑問もそうかもしれません。しかし、僕が自転車で避けることのできなかった虫や植物も含め、生態系の一員としてすべての命はつながり、生物多様性を形成していることを忘れてはなりません。

野生生物の保護に優先順位があることは紛れもない事実ですが、どんな命にも向き合い、共生する未来に向かっていくことを願いたい、と改めて考えさせられたメキシコの旅でした。

>> クマと共存するアラスカ、ベアーカントリーの大原則と西海岸の絶景|元イルカトレーナーの自然・文化遺産めぐり

武藤大輔
武藤大輔◎1995年東京都生まれ。大学在学中に主に海洋生物について学び、沖縄県西表島にて環境省と共にカンムリワシの繁殖研究を1年間住み込みで実施。島生活の中で命の力強さや自然の美しさに多く触れ、生物関係の仕事を目指して2017年に株式会社アワーズ(アドベンチャーワールド/和歌山県白浜町)に入社し、2018年よりイルカ飼育スタッフとして業務に従事。2019年にはヤングダボス会議とも呼ばれる、地球規模の課題解決に向けて次世代リーダーが集う国際サミット「one young world 2019 in London」に日本代表として参加し、海洋プラスチック問題などについてディスカッションを行ない、帰国後も動物たちを通して課題解決に向けた行動変容を促せるようなプロジェクトを多数実施。2023年5月にアワーズを退職し、同月より「地球が創る自然を体感すること」「人が創る文化を体感すること」をコンセプトに自転車で世界一周を行う「Cycle Earth 〜World Bicycle Journey」をスタート。現在アラスカからパナマまでの走行を終え一時帰国中。2024年8月20日までアドベンチャーワールドで「地球を旅する写真展~Take Your New Adventure~」を開催(休園日を除く)

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文・写真=武藤大輔 編集=宇藤智子

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