起業家

2024.05.15 09:15

ビターバレーを興すぞ! 日本のベンチャー誕生と「A4一枚の宣言文」

この宣言がこの後、一年間続くお祭り騒ぎの出発点であった。ここには、渋谷= 「ビター(渋い・苦い)」+「バレー(谷)」を日本のシリコンバレーとし、「企業の相互扶助組織」をつくるということが明快に謳われている。小池は、並み居る起業家たちの若いが自分自身と事業の将来性を信じてキラキラと輝いている顔を見渡しながら、自分の認識を彼らにぶつけた。

「ベンチャー成功の秘訣は、自分が“これだ”と思ったアイデアに集中して、それをしっかり育てていくことにあります。しかし今の日本のベンチャーは、とにかく食べていくことが先に立って、来た注文を全部受け、何でもウェブ屋さんになっているところが多い。これでは自分のやりたいことに集中なんかできない。みんな学生からそのまま商売の世界に飛び込んで、やり方もわからず右往左往している。これとまったく同じ状況が、1994年のニューヨークにもありました。MYNMAが結成されたのも、そうしたベンチャーが寄り集まって仕事のために必要な資金調達や法務の情報を共有し、提供し合っていこうということから始まったんです。それともう一つ、インターネットというのは非常にバーチャル(仮想的で現実感が乏しい)と思われていますが、ネット企業についてはそれは逆で、西海岸にも東海岸にもフェイス・トゥ・フェイス(直接顔を合わせて話し合う)の場があります。そうしたオフの付き合い(オフ会=オフライン・ミーティング。ネット上の付き合いをオン、直接会うことをオフと呼び習わす)の場に起業家が集まっていると、そこに弁護士や会計士、ベンチャーキャピタル(VC)も寄ってきて、人、モノ、カネが集中し、競争も起こって自然とそこが活性化されていくという仕組みです。僕はそれをこの目で見てきました。東京でもやはり同じように起業家が地に足をつけてビジネスを勉強できるコミュニティをつくらなければならない。東京にもネットベンチャーの聖地をつくるべきではないでしょうか」

「東京にシリコンバレーをつくろうということですね」 と参加者の一人。「そうです。東京のネットベンチャーは渋谷中心に分布しているので、僕はシリコンバレーに対してビターバレーと名づけるのがよいと思います」。小池の話に、我が意を得たりと参加者は顔の輝きを増した。「僕もそういうコミュニティを求めていたんです」「では、ここにいるみんなから、ネットを使って知り合いに呼びかけていこう。日本にシリコンバレーをつくろうと」ここからさざ波のように、「渋谷に日本のシリコンバレーを」という想いが広がっていった。もともとみんなが何年も前から考えていてできなかったことであり、しかもなかなか接触できない研究機関やVC、会計士と会うチャンスができるかもしれないとなると、起業家たちの関心を高めるには十分であった。この後、この構想を伝えて他のネットベンチャーを勧誘する電子メールと、賛意を表す返信が飛び交うことになる。
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