本田は、起業家とのコミュニケーションにも工夫が必要だという。「そりゃ圧はかけますよ。成長スピードがゆっくりなスタートアップだったら。でもそれはIPOを求めるのではなく、事業を成長させる圧でないといけない。そのうえで、仮にLP投資家から『早く投資先をIPOをさせてくれ』と迫られたとき、どれだけ信念をもって『圧のかけ方を変えて成長させたほうがあなたたちの利益が高まりますよ』と言えるかが重要。結果を出せなかったらうそっぱちになるわけですけど、そこは勝負です」
VCファンドの本質を見つめ直し、世界で戦えるスタートアップを生み出す──。X&KSK Fundでは、日本発デカコーン企業の創出を目標に掲げる。主に海外志向のシード期からシリーズAのスタートアップに対して、1社あたり1億円~5億円を投じていく方針だが、提供するのは資金だけではない。そのひとつが、グローバルのネットワークを生かした海外展開の後押しだ。
パートナーのジャスティン・ウォルドロンは、ユニコーン企業となった米ソーシャルゲーム会社、ジンガの創業者で、「私ができることは日米の橋渡し。起業家たちが製品やサービスを海外展開するときに、販売ネットワークや展開ノウハウを提供できる」と自信を見せる。楽天米国本社で新規事業やスタートアップ投資を担当した経験をもつマネージングパートナーの山本航平も「自身がもつ国内外の起業家や機関投資家とのネットワークを生かし、投資先の事業を支援していく」と話す。
上場時のユニコーンがプロサッカー選手の最低基準になるとしたら、デカコーンの創出は、世界で戦えるスタートアップ「日本代表」を生むことと同義といえるだろう。その道は険しく、本田自身、決して楽観視はしていない。「日本には研究や芸術、エンタメなどいろんな分野で世界のトップ数パーセントの人材がいて、ポテンシャルがあります。起業家だけが外部要因に影響を受けて、『殻』を破れていない」。現時点では、心の底から投資したいと思える起業家は見つかっていないと明かしつつ、こう決意を表明した。「僕らは投資や支援を行うだけでなく、起業家の視座を上げる意識改革にまでコミットしていく」。
X&KSK FUND◎プロサッカー選手兼投資家の本田圭佑、楽天で投資および事業開発をリードした山本航平、米ユニコーン企業の創業者ジャスティン・ウォルドロンらを中心に、日本のスタートアップ企業へ投資。デカコーン企業創出を掲げる。