──レポートでは、宇宙データへのアクセス向上と宇宙進出のコスト削減が進めばスペースエコノミーは35年までに2兆3000億ドルに拡大する可能性があるとする一方、動きが停滞すれば1兆4000億ドルに留まるとしています。停滞する要因には何が挙げられますか。
このところ新たなタイプのロケットが次々と打ち上げられているが、これらが期待通りに使えなかったり、打ち上げコストが下がらなかったりすれば、スペースエコノミーの成長に影響をおよぼすだろう。また、地上のテクノロジーが進化し、宇宙ベースのソリューションに競合する技術が登場すれば、衛星通信やナビゲーションなどの分野に影響を与える可能性がある。
──地政学的な問題も、スペースエコノミーへのアクセスを停滞させる一因になりますか。
地政学的リスクは必ずしもこのシナリオでは評価していない。確かに、地政学的要因も宇宙経済に大きな影響を与える可能性がある。しかしそのリスクを正確に見積もるのは難しい。
──今年の世界経済フォーラム年次総会(通称「ダボス会議」)では、生成AIのような最新技術は「持つ者」と「持たざる者」との間に不平等をもたらす可能性があるとの声が聞かれました。スペーステクノロジーは格差の是正に貢献できるのでしょうか。
近年、多くの国で宇宙関連の活動や宇宙への投資が進められている。国の大小や宇宙開発の歴史の長さにかかわらず、宇宙産業は誰もが参加できる活動になりつつある。その理由のひとつは、宇宙が他の産業や分野の発展や人々の包括性に多くの素晴らしい機会をもたらすからだ。
人工衛星によって遠隔地に通信環境をもたらし、遠隔医療やヘルスケア・サービスを提供できるようになれば社会の発展や世界中の人々の暮らしの向上に役立つ。結果的に、地球上のさまざまなギャップを埋めることにつながるだろう。
──スペースエコノミーを活性化させるには、人々の意識を高めたり、必要なスキルを教えたりすることも重要です。
宇宙関連市場では今、ロケット・エンジニアやソフトウェア・エンジニアだけでなく、マーケティングからビジネス開発、戦略的プランニング、法務に至るまで、あらゆるタイプのスキルが求められている。リスキリングを含め、教育の仕組みのなかに宇宙という視点を組み込むことが重要だ。
──これから注目すべきスペーステクノロジーは。
数年のうちに実現する可能性のある技術として、より正確で優れた測位ナビゲーションがある。数十センチのピンポイント測位が可能になれば、自動運転システムをはじめ地上の多くの産業や分野に影響を与えるだろう。
ものづくりの分野にも注目している。宇宙ステーションが増えれば、微小重力環境でより多くの実験ができるようになる。特殊な素材の開発から、ワクチンや薬のテストに至るまで、スペースエコノミーが地球経済と融合しながら地球上の人々に貢献するようになるだろう。
3つめは、ますます混雑する地球周回軌道の整備を行う技術やサービスだ。スペースエコノミーの拡大によって、燃料補給や軌道の管理などの重要性が高まる。軌道上のガラクタを処分したり、リサイクルしたりするビジネスにもチャンスが開けている。
ニコライ・クリストフ◎世界経済フォーラム、C4IRフィジカル・テクノロジー、宇宙技術部門リード。スペースエコノミーの未来や宇宙の持続可能性など、宇宙に関する世界的な動きに詳しい。修士(国際経営学)、学士(商学)。