AIに牽引される銅の需要増のペースは、AIが、競争環境における差別化要素と化すやいなや、直線的で穏やかな上昇の域を超えるはずだ。
・世界的な地政学上のリスク
国際銅研究会(ICSG)がまとめた2023年版「ワールド・カッパー・ファクトブック」は、同研究会が長期的な供給に対する重要なリスク要因と考える、複数の制約を列挙している。その中でもより懸念の度合いが高いのが、政治的リスク、プロジェクトファイナンスそして「資源ナショナリズム」だ。チリとペルーは、両国合わせて世界の銅総産出量の37%を占めており、中国とコンゴ民主共和国がそれぞれ8%を担っている。確定埋蔵量は豊富に見えるものの、製錬(49%)および精錬銅の生産(43%)などの下流部門に関しては、中国への依存が顕著だ。
レアアースがとかく注目を集めがちなものの、政治的な緊張が悪い方向に流れ、資本コストが急騰した場合、銅の供給の方がはるかに大きな問題となる危険性をはらんでいる。
緊急事態に陥る前に、今こそ都市鉱山による供給体制の構築を
ゼロ100は2022年、都市鉱山に関する報告書を公開した。その議論の前提としては、サステナビリティおよび原材料調達にテコ入れし、使用済み資源の回収および処理を取り入れた、より強固なエコシステムの構築に結びつけるとの発想があった。銅は、都市鉱山活用の完璧なターゲットだ。なぜなら、銅はすでにリサイクル資源として確立しており、鉱石から新たに生産する銅と比べて、90%のエネルギー削減と40%の炭素排出量削減が実現できるからだ。
都市鉱山の活用候補としての実現性については、もう1つ重要なポイントがある。それは、銅のリサイクルに必要な処理作業が、比較的単純かつ小規模で済む点だ。例えばAlibaba(アリババ)は、低価格の電線剥離機(8500ドル:約134万円)や粉砕装置(1万9800ドル:約313万円)を販売している。これを見れば、小規模企業のオーナーにとって、この市場への参入がどれほど現実的な選択肢なのか、見当がつくはずだ(銅は融点が比較的低く、リサイクル処理を経ても導電性はほとんど失われない)。
これまでに採掘された銅のうち80%は、現存の建物や稼働中の機械において、現在も使われている。一方で、金属スクラップの回収業者が集める銅の量は年間600万トンに達するが、処理の際にそのうち3分の1が失われ、残りの3分の2が、製錬や精錬を手がける業者に送られている。また残念ながら、700万トン分の最終製品に含まれている銅スクラップは、リサイクルされずにどこかへ消えてしまう。
都市鉱山の整備に向けた技術、ビジネスモデル、経済的利点はすでに存在するが、エコシステムは未整備のままだ。戦略的な調達を考えるリーダーは今すぐ、この点の改善に着手することができる。その方法は、リサイクルされた銅を、可能な箇所ではすべて優先的に使用するとともに、サプライヤーの開発と技術移転に注力し、都市鉱山を現地調達の代替供給源として育成することだ。
スコープ3(サプライチェーンの上下流を含めた範囲)の炭素排出量を今すぐ削減できて、後のトラブルも回避できる方法があるのに、危機が起きるまで待つ必要があるだろうか?
(forbes.com 原文)