使いやすくてシンプルな現金
そういう意味では、現金ほど使いやすく、シンプルなものはない。高度な技術もインターネット接続も不要だし、万人に受け入れられている。農村部を中心にした多くの人にとって、現金取引は、安心と即時性の象徴であり、デジタル取引はそれに太刀打ちできない。アジアの主要な新興国ではいまでも、かなりの割合の取引で現金が使われている。WorldPay(ワールドペイ)がまとめたデータによると、2022年の店頭決済に占める現金の割合は、タイが56%、フィリピンが46%、インドネシアが45%、ベトナムが42%だった。
eコマースでも現金が使われており、その割合はベトナムが18%、フィリピンが15%だった。
一方、アジアの複数の先進国でも、現金との親和性が保たれている。これについては、金融包摂(financial inclusion:経済活動に必要な金融サービスをすべての人々が利用できるようにする取り組み)の水準とは無関係であり(金融包摂の水準は非常に高い)、むしろ文化的な傾向と関係がある。
とりわけ、そうしたアジアの先進諸国は、世界で最も高齢化が進んでいるところでもある。たとえば、日本ではいまだに現金が主流で、2022年には店頭取引の51%で現金が使われていた。台湾も日本とあまり差がなく、現金払いの割合は31%。東南アジア随一のフィンテック中心地であるシンガポールですら、2022年の店頭取引における現金払いは19%だった。そうした国々で暮らす高齢者は、数十年も前からクレジットカードを使ってきた西側諸国の高齢者と比べて、現金払いを好んでいる。
日本政府がまとめたデータによると、2023年現在、日本の総人口1億2500万人のうち、65歳以上が占める割合は29.1%。これは世界一位だ。また台湾は、2025年に「超高齢化」社会へと突入するとみられている。超高齢化社会とは、65歳以上の割合が総人口の20%を超える国のことだ。