インドの経済概況を示す直近のデータは実にすばらしい。2023年の実質経済成長率は8.4%で、前年に記録した8.1%から加速している。インドが中国の経済規模に追いつくにはまだ時間がかかることは明白だが、両国の成長率の差は中国政府の上層部を動揺させているに違いない。インド政府は国民に繁栄をもたらすという暗黙の約束を実現しているが、中国政府は自国民への同様の約束を果たせずにいる。
他の経済指標では、インドの成長が一層目覚ましいことが示されている。インド自動車工業会(SIAM)によると、1月の自動車販売台数は前年同月を37.3%上回った。IMFは同国の2024年度の実質成長率予想を6.5%と明らかに控えめなものに上方修正したが、インド商工省は7.6%という至極もっともな見通しを示している。
同国のインフレ率は年率5%と依然として問題だが、鈍化し始めている。いずれにせよ、高すぎるインフレ率は経済不振をともなうとはいえ、中国のデフレ問題よりはましだ。インフレは少なくとも経済を成長させるが、デフレでは人々や企業は将来物価が下がることを期待して支出や投資を控えるため、成長が抑制される。
かつて中国で効果を発揮し、現在ではあまりうまくいっていないように見えるインフラ投資によってインドが成長していることは特に、中国政府をいらだたせるに違いない。この違いの多くは、両国の異なる発展状況を反映している。かつて中国がそうであったように、インドは開発がさほど進んでないため、必要なものは明らかだ。例えば、舗装された道路や快適な住宅、拡張された港湾などだ。
これらへの公共投資は、中国が数年前に認識し、そして今インドが享受しているように、成長と生活水準の向上という経済面での大きな見返りをもたらす。また、インドが予算案で昨年度比11%増の1340億ドル(約20兆円)をインフラ整備に計上したことは、今後も公共投資が強力な効果を発揮することを示唆している。中国はそうした過程をすでに経ているため、大きな効果は望めない。開発が比較的進んでいることから、なすべきことがあまり明確でない。また、すでに多くの開発が行われたため、計画立案者が役立ちそうな妙案を持っていてもその経済効果は大したものではない。
中国が最近痛感しているように、インドで開発が進めば進むほど、このようなインフラ整備は劇的な経済効果を生まなくなる。だが、その間に両国の経済格差は縮まり、そうなれば中国政府は経済や外交、軍事などあらゆる面での目論見を変えざるを得なくなるだろう。特に中国が太平洋に目を向け、経済、外交、軍事面で米国と張り合うことを企てれば、インドはより存在感を増し、中国政府を今以上に不安にさせることになるだろう。
(forbes.com 原文)