経営・戦略

2024.04.15 08:30

労働の世代交代で「暗黙知」が再注目、日本流の企業経営がお手本

木村拓哉
デニソンは1990年代半ば、一橋大学で客員教授として、野中らと研究をしていた。彼は野中から、三菱電機がホームベーカリーの開発に取り組んでいた頃の話を聞いた。「初期の試作品は、パンの外側は焦げ、内側はベトベトのままだったそうだ」とデニソンは言う。

三菱電機は、技術者たちをパン屋へと送り込み、パン職人の仕事ぶりを観察させた。技術者たちは、「職人たちがただ生地をかき混ぜるのではなく、ねじったり伸ばしたりするテクニックを使っていることを発見した」

設計チームが、生地をねじることができる機械を作ったところ、うまく機能した。「暗黙知を表面化させるということは、しばしば、徒弟モデルのようなものを使って始めることを意味する」

野中は、竹内弘高(ハーバード大学経営大学院教授)とともに、「知識変換のSECIモデル」を開発した。共同化(Socialization:暗黙知の共有、およびそれを基にした新たな暗黙知の創造)、表出化(Externalization:暗黙知を形式知として洗い出すこと)、連結化(Combination:洗い出された形式知を組み合わせ、それを基にして新たな知識を創造すること)、内面化(Internalization:新たに創造された知識を組織に広め、新たな暗黙知として習得すること)の頭文字をとったSECIモデルは、組織が暗黙知を明示された知識に変換し、共有し、実践可能にするのを助けるモデルだ。

野中と竹内が1995年に英語で出版した『The Knowledge Creating Company: How Japanese Companies Create the Dynamics of Innovation(知識創造企業:日本企業はいかにしてイノベーションのダイナミズムを生み出すか)』(邦訳:東洋経済新報社)は、暗黙知に関する代表的な書籍だ。

問題に取り組む

ベビーブーマー世代が大量に職場を去りつつあるなかで、個人やチームが暗黙知を確実に受け継ぐにはどうしたらいいのだろうか? 以下で、いくつかのアドバイスを紹介する。

・気付きを生み出す:暗黙知は、その仕事をしている人の経験の中に存在する。そのためマネジャーは、チームの誰が、何を知っているかを特定し、彼らが得意とすることを実践できるようにする必要がある

・気付きを共有する:メンタリングは、知識を広めるのにうってつけの方法だ。職人たちは、職場内訓練(OJT)でこれを行うことが得意だ。若手技術者はベテランとペアを組み、「正しいやり方」を学ぶ

・それを基に改善する:暗黙知は生成的なものであり、それ自体が糧となって成長する。誰かが仕事をするためのノウハウを得たら、皆でそれを共有し、改良することができる。その実践こそが、カイゼンの中で学ぶ鍵だ。AIを日々の業務プロセスに組み込んでいる今ほど、暗黙知が重要なときはない

暗黙知を機能させる

暗黙知は、目新しいものではない。それ自体が革新というわけでもない。しかし、暗黙知なしでは、イノベーションは失敗するか、少なくとも、より複雑なものになる。なぜなら、常にゼロから出発し、すでにそこに存在するものを無視して「車輪を設計し直す」ことになるからだ。

多くの組織が、元従業員を顧問として再び招聘している。これは、原則的には良い解決策だが、難題は、暗黙知の実践を、日常的なマネジメントに統合することだ。

野中は、「不確実性こそが確実であるような経済において、永続的な競争優位の揺るぎない源泉は知識である」と書いている。そうした知識を獲得し、育て、維持することこそ、あらゆる組織にとっての課題と言える。

forbes.com 原文

翻訳=ガリレオ

タグ:

ForbesBrandVoice

人気記事