第二に、テクノロジーのトレンドや数年後の未来を理解するためだ。筆者はコンテンツマーケティングのコンサルタントとして活動しているが、マーケティング戦略やブランド戦略を立てる際、該当企業の事業に関係する可能性がある「メガトレンド」が重要となる。ここを外してしまうと、ビジネスのルールが変わるような大きな出来事が生じた際、対応が間に合わない。最悪の場合、事業継続が困難となる。
ところが、(筆者だけかもしれないが)日本にいるとどうしてもメガトレンドや近未来予測の情報が手に入りにくい。世の中の流れが加速する中、特に近未来予測についてはネット上のどの情報を信用すればいいのかも分からない。
日本から飛び出して、生の情報に触れ、疑問があれば直接専門家に質問し、様々な国・地域の参加者らと議論する。そうすることで、信頼に足る現在のトレンドや数年後に予想されるシナリオがようやく手に入る。だからこそ、筆者が住む熊本から丸1日かけてオースティンまで足を運んだのだ。情報収集の意味で、コンフォートゾーンから抜け出すことの重要性が、相対的に高まっていると感じる。
未来に備えることがチャンスになる
SXSWで語られた未来予測については、別の機会に書きたい。今回は、3日間参加してこれまでで最も印象に残ったセッション「あなたの組織に未来学者が必要な理由」を共有する。医療系財団「ロバート・ウッド・ジョンソン財団」の取り組みを紹介するものだ。同財団は、未来予測のチームにフューチャリストを招聘(しょうへい)している。アーティスト・イン・レジデンスならぬフューチャリスト・イン・レジデンスである。2024年は推理小説家や倫理学者も同じ立ち位置で招聘しているといい、興味深い。
同財団シニア・ディレクターのロリ・メリチャー氏は、財団が次にどこに焦点を当てるべきかを決める上で、役立ちそうなことを探ることがチームの役割だと明かす。少なくとも5年先、15年先、時にはさらに先の未来まで見通すことが求められる。普段は、財団の活動に影響を与えそうな、新たなトレンドや最先端のアイデアを理解しようと努めているという。
メリチャー氏は、一例として、将来の健康の公平性に影響を与える可能性のある「変化のシグナル」を捉えようとしていると説明する。その後、変化に対処するための実験を探し、財団から資金を提供することにも取り組んでいる。