実際、都市部の公園などの自然環境を週に数回訪れた貧困層のウェルビーイングは、最も裕福な調査対象者とほぼ同じだった。この傾向は、オーストリア全土とウィーン都市圏の両方で明確に示された。
「この研究結果からわかったのは、1年を通じて少なくとも週に1回、自然を訪れることで得られるウェルビーイング向上効果は、年間1000ユーロ(約16万円)の収入増による効果と同程度だということだ」と、論文の筆頭著者で、ウィーン大学博士課程で環境配慮型行動と自然との触れ合い効果について研究しているレオニー・フィアンは述べている。
この研究における「自然」には、公園や林、森などの緑地と、川、湿地、ビーチ、運河などの水辺が含まれる。この点は、都市生活者にとってはとりわけ重要だ。居住地や収入に関係なく、すべての人がメンタルヘルスに対する自然の恩恵を受けられることを意味するからだ。
「特に低所得者にとっては、魅力的な憩いの場となる自然環境が近くにあり、公共交通機関で行かれるという情報が重要な役割を果たす」と論文の共著者で、都市森林のレクリエーション利用が専門のBOKU大学准教授アルネ・アルンベルガーは語る。
興味深いことに、自然と触れ合うことによるメンタルヘルスの改善効果は、高所得者には見られなかった。
残念ながら、社会経済的地位の低い人々の間で自然環境を利用できる人とできない人がいる状況は、健康の不平等を悪化させる恐れがある。このため、特に都市部に住む人について、誰でも緑地や水辺を利用できるよう支援する必要がある。
「つまり、週末には公共交通機関で簡単に行かれるようにすべきだ」とアルンベルガー准教授は提案した。
この発見は、公衆衛生戦略、中でも大都市圏における社会経済的なメンタルヘルス格差に取り組む上で意義深い。公衆衛生の観点からは、より緑豊かな地域や自然の憩いの場をつくるだけでなく、それらの空間を利用しやすくし、特に社会経済的に恵まれない人々にとって訪れやすい場所にすることが肝心だ。
出典:Leonie Fian, Mathew P. White, Arne Arnberger, Thomas Thaler, Anja Heske and Sabine Pahl (2024). Nature visits, but not residential greenness, are associated with reduced income-related inequalities in subjective well-being, Health & Place 85:103175 | doi:10.1016/j.healthplace.2024.103175
(forbes.com 原文)