「新卒年収710万円」実施も。日本が高賃金化を目指す方法

(写真左)西山裕之|GMOインターネットグループ副社長(同右)田尻 望|カクシンCEO、『高賃金化』著者

バブル崩壊後、30年間日本人の給与はほぼ横ばい。諸外国と比べても賃金は低く、海外への人材の流出も懸念されている。そんな危機的状況のなか、日本企業が高収入・高利益を叶える方法をふたりに聞いた。


──日本はなぜ低賃金なのか。

田尻 望(以下、田尻まず、経営者の計算式が間違っています。賃金の源泉は、付加価値生産性。付加価値生産性は付加価値額を総労働時間で割った値ですが、分母は時間ではなくコストだと勘違いしている経営者が少なくない。コストととらえると、付加価値生産性を高めるために派遣やアルバイトを雇い1人当たりの人件費を抑えようとしてしまう。高賃金化を目指すなら、働く時間を短くすることが正解です。

西山裕之(以下、西山低賃金はふたつのパターンがあると考えています。大企業は、上げようと思えば上げられる余力があるはずです。しかし一度上げると下げにくいことや横並び意識が強いことから、経営者が給与を上げることを目標にしていません。一方、中小企業はそもそも収益力が低くて給与を上げるための原資がなく、最初から諦めている。いずれにしても経営者の意識の問題です。

田尻:GMOインターネットグループは「新卒年収710万円プログラム」を始めましたね。これも経営者の意識が出発点でしょうか。

西山:発端はリモートワークでした。誰がどのような仕事をしているのかを可視化するプロセスで、無駄な仕事がみえてきて、さらにRPA(ソフトウェアロボット)を活用することで業務効率化が進みました。生産性向上でできた原資をどこに投資すべきか。そんな議論が始まったときに、グループ代表の熊谷が「日本で一番の給与水準にする」と突然宣言したんです。

トップが宣言しないと始まらない。その意味では経営者が起点でした。宣言があったのはいいものの、日本一の給与水準にするのは時間がかかります。そこでまずは新卒からスタート。調べると日本企業で一番高い会社が700万円だったので、それを10万円上回る額を掲げてプログラムを始めました。

田尻:やってみて、どこが難しかったですか。

西山:新卒の給与を約2倍にしたので、その前に入ったパートナー(社員)とは逆転現象が起きます。既存のパートナーに納得してもらうためには、誰が見ても優秀だよねという人を採用するしかない。その見極めに苦労しました。

技術系は優秀かどうかわかりやすいのですが、ビジネス系は評価が難しくて。必死で見極めて、ぜんぶで27人を厳選。これは例年の約5分の1です。入社して半年たちますが、配属先からいい意味で「こいつはヤバイ」という声が聞こえてきたのでホッとしています。

──収益を増やしてから高賃金化するのか、高賃金で優秀な人材を集めて収益力を高めるのか、どちらが先か。

田尻:収益が先です。上場企業は収益を上げないと株主が離れてしまいます。ただ、給与をコストととらえている経営者は、収益を出すために人件費を削る方向に行ってしまう。これでは一時的に収益が出ても、付加価値を生めずにいずれ収益が減っていきます。

収益を先にしたうえでスパイラルを逆に回すには、経営者が従業員に「収益が上がれば賃金を上げる」と約束することが大切です。かつて私が在籍したキーエンスは、業績連動型賞与制度を採用して、収益が上がれば社員に還元される制度設計ができていました。
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文=村上 敬 写真=小田駿一

この記事は 「Forbes JAPAN 2024年2月号」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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