田尻:「うちの業界は特殊で付加価値をつくれない」と嘆く経営者もいますが、それは間違いです。例えば保険はどの会社も商品が似通っていますが、その保険が顧客の未来にどう役立つのか、ソリューションを考えている営業担当は成績がいい。会社も同じです。コモディティ化が起きている業界でも付加価値をつくることは可能です。にもかかわらず、弱気になっている経営者が多い。
西山:「こんなもの」と思った時点で企業は衰退が始まります。私たち自身、危機感は強いですよ。グループ7400人の規模に成長して、今はそれが強みになっていますが、思考停止した瞬間に大企業病が始まり、スタートアップに駆逐されるかもしれない。現在、私たちはAI活用No.1企業グループを目指しています。まず社内でAIの業務活用コンテストを始めました。来期からは数値目標を定めて評価にも組み入れます。こうしたチャレンジも、付加価値を生み続けるためです。
田尻:あらためてグローバル化することも重要です。国内需要を国内で取り合っても日本人の給料は増えません。従来のようにプロダクトアウトならぬ“ジャパンアウト”で日本の視点をそのまま世界にもち込むと失敗します。ご飯も安く医療制度も整っている日本は、生活で困ることはなく世界と状況が違う。世界の視点で課題を見つけて、それを自分たちがもっているもので解決することで国際競争力を高めたい。
西山:そのためにまず「自分たちは何で戦っていくのか」「何のためにそれをやるのか」というビジョンや理念を明確にすべきです。そこからスタートすれば、強みを磨き込んで付加価値をつくって高賃金化できるだけでなく、働く人の誇りにもつながります。私たちは理念を「GMOイズム」というかたちで明文化して全員で共有していますが、日本は理念をもった企業が比較的多い国です。そこに可能性を感じています。
西山裕之◎1964年生まれ。GMOインターネットグループ取締役、グループ副社長執行役員・COO、グループ代表補佐、グループ人財開発統括。学生時代にスタートアップ「リョーマ」を創業。
田尻 望◎1985年生まれ。カクシンCEO。キーエンスを退社してから17年に経営コンサルタントとして「カクシン」を設立。著書に『高賃金化』など。