経済・社会

2024.02.20 13:30

トランプ当選で日本のビジネスはどうなる? 2024年、地政学上の最重要事項と戦略

経済の武器化と日本企業の戦略

塩野:米中関係では近年、制裁合戦の様相があって、いわゆる「経済安全保障」が争点となり、経済の武器化が進んでいます。地政学的な潮流を踏まえて、企業にとっても軸足を中国からずらしていく選択肢をもつことも中長期的には重要になってくるでしょう。米国大統領選の行く末をにらみつつ、日本と日本企業はどのような戦略が重要になるでしょうか。

久保:米ソ冷戦時代の日本は(最前線ではないので)何となくやっているふりをすればよかった面もありますが、米国の最大のライバルは中国であり、日本は地理的にもその最前線に位置します。防衛費を増額することもあり、米国にとって日本はいちばん大事な同盟国といえます。「少し目が覚めるのが遅かったんじゃないか」とは思っているかもしれませんが。日本としては、対中国、あるいは対ロシアの外交をアメリカが強力に進めていく際には、日本は絶対に欠かせないパートナーであるということを、民主党、共和党どちらであっても、エリート層、安全保障の専門家から地方の有力者、政治家を含めて、アピールしていくことが大事でしょう。日本の経済界も経済的観点だけで中国を見るわけにはいかなくなっていることを認識すべきです。

塩野:アメリカの経済問題と外交政策の関係の変遷をどうご覧になっていますか。

久保:なるべく制約の少ない自由貿易を掲げる新自由主義は、ここ20年思潮が変わってきました。ものの移動を制限しないと安全保障も危うくなるというのが、経済安全保障の考えです。2016年のトランプの当選やブレグジットは、グローバリスト・エリートの敗北と言えます。ただ、難しいのは、グローバル化を完全にストップさせられるわけではなく、どこまで許容して、どこから止めなければいけないかを我々自身が考えていかなければいけない。この点での国際的・国内的合意は非常に難しく、今は生みの苦しみのなかにいます。

日本企業としては、特に半導体事業や安全保障にかかわる事業をしている場合には、中国に依存しないデリスキングの観点で生産拠点の多様化を進めるということが中長期的には検討すべきでしょう。

塩野:トランプの当選はありうるという前提で人脈づくりや情報を入手する体制は必要でしょう。結果がどうなっても対応できるような準備が重要です。
しおの・まこと◎経営共創基盤(IGPI) 共同経営者、地経学研究所経営主幹兼 新興技術グループ・グループ長。JBIC IG Partners代表取締役CIO(投資責任者)ワシントン大学ロースクール法学修士。金融やコンサルティング企業など経て現職。欧州、ロシアで企業投資を行う。

しおの・まこと◎経営共創基盤(IGPI) 共同経営者、地経学研究所経営主幹兼 新興技術グループ・グループ長。JBIC IG Partners代表取締役CIO(投資責任者)ワシントン大学ロースクール法学修士。金融やコンサルティング企業など経て現職。欧州、ロシアで企業投資を行う。

文=渡辺将之 写真=平岩 亨

この記事は 「Forbes JAPAN 2024年2月号」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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