欧州

2024.01.30 10:30

欧州は「トランプ2期目」にどう備えるべきか

安井克至

Joseph Sohm / Shutterstock.com

筆者はかねて3月の頭が米国の政治と経済の行く末にとって決定的に重要な時期になると考えてきた。3月4日、ドナルド・トランプは、2020年の大統領選の結果を覆そうとした事件の被告人として初公判に臨む。翌5日、共和党は多くの州で、2024年の大統領候補を選ぶ予備選挙などを開く。公判はトランプを「殉教者」のように祭り上げる舞台装置になり、むしろ彼の復権を後押しすることになるだろう──。

もっとも、共和党の指名争いレースはもはやそうしたドラマ性すら失いつつある。トランプは2番手のニッキー・ヘイリーを大きく引き離し、共和党の政策アジェンダもコントロールし始めている。トランプには明白な弱点があって、それは岩盤支持層である「右派」の共和党員以外は票をあまり獲得できそうにないことだ。そのため一部の献金者は引き続きヘイリーを支援し、おかげで彼女は多くの人が思っているよりは長くレースに残れるかもしれない。

とはいえ、ここへ来てトランプの再選が現実味を増しており、米国の活動家や法律家、政策コミュニティーは第2次トランプ政権の誕生と、その下で起こりそうな社会の分断(今よりさらにひどくなる恐れがある)に備え始めている。一方、米国外でこのシナリオに関してよく言われるのは、欧州はトランプ2期目への準備ができておらず「自由」世界のリーダーが野心的な独裁者になる世界で「お手上げ」状態になるだろうというものだ。筆者は果たしてこうした見方が妥当なのか、確信をもてない。

いずれにせよ、トランプ再選による欧州への影響をめぐる議論ではたいてい、防衛が焦点になる。そこでは、米国が北大西洋条約機構(NATO)から脱退し、欧州はロシアのなすがままになるのではないかと懸念されている。確かにこの点に関しては、欧州の政策当局者も最近相次いで警鐘を鳴らしている。

たとえば、英国やドイツの国防相、ノルウェーやスウェーデンの将官、NATOの軍事委員会のトップらは1月中旬、NATOとロシアの戦争の可能性について明確な警告を発した。また「欧州防衛の柱」としての欧州連合(EU)軍の創設、EU独自の核抑止力の保有(現状、EUで独立した核戦力を有するのはフランスだけだ)なども呼びかけられているほか、英国の将官からは「市民軍」を組織する必要性があるとの声も上がった。

欧州がもし、ロシアがさらに好戦的になる(筆者には判断しかねる)という「トランプ2.0」の世界に備えた政治・安全保障面の基盤整備を本気で考えているのなら、できることはいろいろある。それをやるかどうかは欧州の本気度を試すものになるだろう。

まず、本欄で繰り返し主張してきたことだが、EUは加盟国のスロバキアとくにオルバン・ビクトル率いるハンガリーに(加えて加盟候補国のセルビアも)、どちらの側につくのかを選ばせる必要がある。トランプはオルバンを称賛する(プーチンの場合、オルバンをコントロールするだけだ)西側唯一の有力政治家であり、オルバンもトランプ再選を支持している。オルバンの汚職とロシアびいきはハンガリーの体制に組み込まれつつある。
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翻訳・編集=江戸伸禎

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