絵画に描かれた夜明けと夕暮れ、微妙な違いを人の目は見分ける

ジョージ・イネス『マサチューセッツ州メドフィールドの夕暮れ』(1875年、油彩/カンヴァス)(Sepia Times/Universal Images Group via Getty Images)

夜明けと夕暮れは、どちらも昼間の明るさと夜の暗闇の境目に当たり、その時間帯でしか見られない色彩で空を染める。たいていの人は太陽の位置や動きから、その空の色が朝のものか、それとも夕方なのかをすぐに判別できる。だが最新の研究結果によれば、人間の目は私たちが思っている以上に夕日と朝日を見分ける能力に長けているようだ。たとえそれが何世紀も昔に描かれた絵画であっても、人は空の色を見ただけで、朝か夜かを見分けられるというのだ。

英ニューカッスル大学とオランダのデルフト工科大学の研究チームは、100枚以上の風景画のデジタル画像を用いて、絵画を見た人が描かれた時刻をどれだけ正確に推定できるかを調べる実験を行った。使用した絵画の多くは、時間帯を明確に示す表題が付けられたものだ。たとえば、19世紀米国の風景画家ジョージ・イネスの作品は『マサチューセッツ州メドフィールドの夕暮れ』と命名されている。

実験では、51人のボランティアが表題を隠した絵画のオンライン画像を鑑賞し、描かれた場面が朝、正午ごろ、午後、夕方、夜のどれだと思うかを答えた。

ほとんどの絵画について、半数以上の実験参加者が朝、昼、午後、夕方、夜をはっきり区別した。参加者がまったくばらばらの時間帯を推測した絵画は全体の約4分の1にとどまり、全体として、作品ごとに描かれた時間帯に関する参加者の評価はおおむね一致する傾向があった。

では、なぜ参加者は、偶然よりも高い頻度で、絵画に描かれた時間帯を正しく見分けることができたのだろうか。研究チームは、絵画の色彩を詳しく調査。ほとんどの参加者が「朝の絵」だと思った作品には、明るい青色と濃い黄色がより多く使われ、「夕方の絵」だと考えた作品には、濃い青色と明るい黄色が多く用いられていることを発見した。

画家たちが意図してそれらの色彩を用いたことは明らかだ。研究を主導したニューカッスル大のアーニャ・ハールバート教授(視覚神経科学)は、「成人に備わっている視覚認知の基本的なプロセスを、画家が利用していることを示す発見だ」と大学の記者発表の中で説明している。「画家たちは、人間の脳が進化の過程で昼間の自然光の変化をどのように解釈するようになったかを、無意識のうちに理解しているようだ。この研究結果により、視覚認知に関する理解が深まった」

絵画に描かれた時間帯を多くの研究参加者が正確に当てたという事実は、人間にはこうした色彩パターンの違いを認識して、朝か夕方のどちらかを直感的に連想する傾向があることを示している。

風景画家は、私たちと同じように自然光の色彩に注目したうえで、彩度や明度を巧みに操って作品の中でそれを模倣し、ほんのわずかな色のヒントのみから描かれた時間帯がわかるように仕上げているのだ。

デジタル化保存された絵画の画像からは比較的容易に色情報を収集できることから、この研究手法は、人間が世界をどのように見ているのかをよりよく知るのに有用なことが判明した。「絵画は、科学者が視覚認知機能を理解するための豊かな情報源になる」とハールバート教授は語っている

forbes.com 原文

翻訳・編集=荻原藤緒

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