19世紀風景画を生態系研究に活用 分野横断の新手法

アッシャー・デュランドによる1845年の作品「The Beeches」(Photo by Heritage Art/Heritage Images/Getty Images)

生態学者と美術史家からなる研究チームが、19世紀の絵画からランドスケープ・エコロジー(景観生態学)の正確な情報を得る取り組みの成果をまとめた論文を発表した。米国のハドソン・リバー派、特にアッシャー・デュランドの作品を分析し、過去の生態系を知る手がかりとなる絵画や画家を判断する上で役立つ質問リストを作成した。

生態学者は、自然の経年変化を調査する際、現在のデータと過去に収集された情報を比較する。データの多くは研究者によって収集されたものだが、それ以外にも生態系に関する情報は存在する。

「過去の生態系を研究することは、将来の景観変化を予測する上で役立つ」と、オレゴン州立大学森林学部のダナ・ウォーレン准教授は話す。例えば、米国の生態学者は、欧州からの初期の入植者が記録した土地調査を参考にしている。しかし、これらの調査は、森林の状態について詳細に記録していない。そこで、ウォーレンらは、古い風景画に着目した。

絵画は、描かれた内容が正確であれば、貴重な科学的情報源になり得る。科学者は何世紀もの間、自分が発見したものについて詳細な図を描いて記録してきており、医学者や植物学者は芸術家と緊密に協力してきた。しかし、研究目的で描かれていない風景画は、どれほど正確に描かれているのだろうか?

「古い風景画を活用する上で重要なのは、描かれている内容と用いられた絵画技術を客観的かつ科学的に精査し、画家が正確に自然を描写しようとしたか検証することだ」と、研究に携わった樹病学専門家デビッド・ショーは言う。

生態学者たちは、美術史家の協力を得て、アッシャー・デュランドを研究対象に選んだ。デュランドは、19世紀中頃にニューイングランドの風景画を描いたグループであるハドソン・リバー派のメンバーだ。同派は自然の描写を重視し、テクノロジーの進歩が風景に与える影響を懸念していた。

芸術作品が記録した環境の変化

デュランドの作品が、19世紀の森林を生態学的に考察するための情報源としてふさわしいかを判断するために、研究チームは4つの質問リストを作成した。作者は、自身が描いた風景を実際に観察したか? 生態系を理解していたか? 作品は、どのような背景で制作されたのか? 作品を制作する上でどのような思いを抱いていたか?

デュランドは、自然界をよく理解しており、他の画家たちにも、自然を描く場合はよく研究するよう勧めていたという記録が残っている。また、彼は実景を注意深く観察し、ありのままの世界を表現するためには細部を正確に描くことを重視していた。そのような観点から研究チームは、デュランドの作品が、19世紀当時の森林の姿を示す証拠資料として使えると判断した。

研究チームが作成した4つの質問は、他の画家や絵画の調査にも用いることができる。研究チームは論文で、生態学者と美術史家による共同作業を促進するための手順を説明している。

研究に参加したスミソニアン・アメリカ美術館のエレノア・ハービーは「分野を超えて研究者が協力することで、歴史的な芸術作品がどのように環境保全への懸念を表現してきたか理解することができる」と述べている。今後はエコロジー研究に美術史家が関わる機会が増えるかもしれない。

forbes.com 原文

編集=上田裕資

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