卒業名簿を狙え! トヨタも注目、転職市場の新戦略は「ブーメラン採用」

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Did she boomerang ?
 
皆さんは、この一文をどう訳すだろうか。これは実際にアマゾン・ジャパンに在籍した元社員が経験した会話で、「彼女は出戻り?」と訳すのが正解だ。
 
外資系企業では、退職者のデータを消さずにおき、必要な職種に空きができた際に再入社を促す「ブーメラン採用」が以前から当たり前に行われている。「全員がブーメランできるわけではなく、在職中に期待された成果が出せなかった、問題があったなどの理由で、出戻りNGの印がつけられている元社員もいるようです」(某大手外資IT元社員、ブーメラン経験者)。ただしもちろん、その場合も規定の採用面接や試験は行われるようだ。

トヨタやニトリなど日本の大企業でも

そしていま、「ブーメラン採用」を積極化する動きが、日本企業の間でも活発になり始めている。企業と元社員を結び「アルムナイ(卒業生)ネットワーク」の運用サービスを提供するスタートアップのハッカズークによると、導入企業数は7倍、月間のアクティブユーザー数は20倍(2020年12月と2023年12月を比較)に増えているという。
 
トヨタ自動車やニトリ、中外製薬、三菱商事、みずほフィナンシャルグループなど業種を問わず大企業が導入をしており、利用企業は採用情報の配信や社内イベントへの招待を送るなどしてアルムナイとの関係構築を図る。現職情報や毎日の利用率を見ることができ、1on1のメッセージ機能から直接スカウトをすることも可能だ。また、アルムナイは専用のアプリを使って、企業の情報を閲覧できるだけでなく、アルムナイ同士の交流もできるため双方にとってメリットが大きいという。
 
ではなぜブーメラン採用を行う企業が増えているのか。
 
昨今、コロナ禍の落ち込みはあったものの転職者数は増加傾向にある。しかし、実際に1年間に転職する人は就業者数のうち約8%だ。
 
Sansanで名刺アプリを手がけるEight事業部のビジネス推進部 副部長 橋本剛氏は、いまの転職市場を次のように説明する。
 
「人手不足が深刻化するなか、人材採用したい企業が8%のパイを取り合うのはますます厳しい戦いになっている。そこでターゲットになっているのがアルムナイです」
 
アルムナイを採用することの最大のメリットはオンボーディングコストがほとんどかからないことだ。企業文化や業務フローを理解しているため、研修費用をかける必要はほとんどない。
 
仮に年収600万円で中途人材を1人を雇った場合、「ひと月の研修費用10万円+研修月の給与50万円」=60万円」がコストになる。エージェントを使った採用であればさらに金額が上乗せされる。それに比べてアルムナイは、初日から戦力になるため、企業側には魅力的に映るのだ。 
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文=露原直人

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