「インスタカートは、壮大なアイデアを掲げて成功する企業の鍵となる基本原則を踏襲している。第1に、巨大な市場があること。第2に、素晴らしい、使命感にあふれる創業者がいること。第3に、優れた製品やサービスをもつこと。さらに、それらの力が“適切な商品を、適切な場所で、適切な時に提供する”という同社の重要な魅力によって増幅されていること」。
成長とともに、インスタカートは地元の食料品店の不興を買うようになった。食料品店の経営陣は間もなく、同じ顔触れのインスタカートのショッパーたちが店内を巡る姿に気づき始め、アルバートソンズなどの大手食料品店チェーンはインスタカートにこうした行為の停止通告書を送付した。メタは、それを自身の部屋の壁に飾っていたと、かつてサンフランシスコでメタのルームメイトであり、現在は開発者向けツールのスタートアップ、スーパーブロックスのCEOを務めるブラッド・メネゼスは語る。「名誉の印として受け止めていました」。食料品店チェーン各社は、最終的にパートナーとしてインスタカートに加盟している。
メタはインドで生まれ、赤ん坊のうちに両親とリビアへ移り住み、14歳でカナダに移民。ウォータルー大学で学びながらモバイル機器メーカーのブラックベリーに4カ月勤め、08年に卒業するとアマゾンでサプライチェーン担当エンジニアの職に就いた。この巨大EC企業で事業の運営管理スキルを磨いており、それが後にインスタカートの本格的な成長を支えることになる。この早い段階においてさえ、メタの起業に対する熱意は明らかだったが、それは諸刃の剣でもあった。
「起業家は、“このやり方が正しい”、あるいは“この製品を開発するのが正しい”と心の底から信じなければならないことが多い」と、アマゾンでメタの最初の上司だったカーニー・リーは語る。「ただ、その信念が目を曇らせることもある」。
メタは過去に、その「カオスな経営」を批判されている。報道によれば、製品開発を握り込み、開発部門の一部の幹部を怒らせ、少なくとも4人を退社に追い込んでいる。「あれは会社が1年で400%成長した時のことですから、物事が多少はカオスになるのも無理はありません」と、批判的な主張があることについて聞かれたメタは答える。「そのような描写はフェアではないと思う。実際のデータを見ると、インスタカートの離職率は極めて低いですから」。
しかし、メタの熱烈な支持者たちさえも、特定の問題に対する彼の柔軟性に欠ける姿勢に言及している。「10人中9人がやめるべきだと言うアイデアを押し通し、実現する道を見つけてくるには、途方もなく強靭な精神力が必要です」と、コインベースのCEOで、メタとはYコンビネータで同期だったブライアン・アームストロングは語る。一方、前出のタンは、メタの「諦めない」性格を指摘する。「諦めないこと」とは、別の言い方をすれば「とてつもなく頑固であること」だと語っている。