26歳で、食料品の買い物代行サービスの「インスタカート(Instacart)」を立ち上げたアプールバ・メタ(Apoorva Mehta)。パンデミックの需要拡大により会社は急成長を遂げたが、一部の取締役や投資家との不仲説が囁かれるなか、2021年にCEOを退任。そしてこの9月、インスタカートが99億ドルでIPOすると同時に取締役会長を退いた。彼の決断とその真意に注目が集まる。
サンフランシスコの中心街にある人影もまばらなオフィスの会議室。アプールバ・メタはそこで、自身が創業し、2年前まで率いていた食料品デリバリー企業、インスタカートでの日々を詳しく語った。彼が新たに手がけるスタートアップ企業、クラウド・ヘルス・システムズの本社で腰を下ろし、自身の退任をめぐって長い間繰り広げられてきた論争に言及する。「私が追い出されたのではないかという人はたくさんいます。ただ、仮に私がインスタカートの最高経営責任者(CEO)でいたかったなら、ずっとCEOでいますよ」。メタいわく、同社を離れたのは新しいスタートアップに「専念する」必要があったからだ。
メタは、2021年7月にインスタカートのCEO職を降りている。メタ社で長く要職に就き、フェイスブックアプリを統括していたフィジー・シモに手綱を引き渡したのだ。それ以来、インタビューも受けていなかった。その後はインスタカートの取締役会長となったが、当初から、同社が上場したら取締役会を去る意向だった。インスタカートは23年9月19日に株式を公開。IPO評価額は99億ドルで6億6000万ドルを調達したが、この評価額はほんの数年前の高騰時の390億ドルを大幅に下回った。そしてこのとき、メタは有言実行を果たした。
株式公開がメタの望んだ夢であったか否かは、聞く相手によって見解が異なる。メタは、インスタカートの取締役でセコイア・キャピタルの元トップ、インスタカートの初期投資家でもあるマイケル・モリッツと議論になりがちな関係にあったと、事情を知る3人は語っている。意見の相違の主な原因は、メタがインスタカートの上場に消極的だったことだった。
メタが今回Forbesに語ったところによると、ゆくゆくの上場には反対ではなかったが、その時点では正しい選択だと思わなかったという。インスタカートはパンデミック中に爆発的な成長を遂げ、そのインフラはパンク寸前だった。一方で、最高財務責任者(CFO)のサーガル・サングビが辞めたばかりで、これから複雑な財務プロセスを実行しようとするには大きな痛手だったとメタは語る。サングビの後任のニック・ジョバンニの入社は21年1月。そのようなタイミングでのIPOは手に負えないと考えたのだ。
メタは現在、劇的な転換点にいる。自身が「ライフワーク」と呼ぶ会社が重大な節目を迎えるのに、そこから身を引くのだ。「現実味がないですね」と彼は言う。
とはいえ、一財産を築くことにはなりそうだ。ただし、インスタカートの評価額の下落に伴い、メタの純資産は減少している。インスタカートの持ち分を10%保有し、個人としては最大株主となるメタは、20年に同社の評価額が137億ドルに達した際にビリオネアとなった。評価額はその1年後に390億ドルの最高値を記録している。22年にテック企業の評価額が軒並み急降下した後の23年1月、Forbesはメタの持ち株の価値を13億ドルと試算。インスタカートが99億ドルの評価額で株式公開した結果、メタの持ち分の価値は推定8億ドルになる。同社は、メタがIPOで70万株を売却すると発表している。