国内

2024.01.18

共同代表制で底上げされた経営力「社会の公器」たる新世代の総合金融機関へ

宮城 徹(写真左)水野智規(同右)UPSIDER

Forbes JAPAN2024年1月号の特集「日本の起業家ランキング2024」で8位に輝いたのは、UPSIDERの宮城徹と水野智規。

法人カードを皮切りに、新世代の総合金融機関としての成長を目指す同社は、共同代表制への移行で確実に経営力を強めている。


主力事業である法人カードサービスの累計与信枠は5000億円を超えた。2022年4月にクレディセゾンと共同でリリースした、銀行振込の支払いを手もちのクレジットカードで決済できる「支払い.com」も短期間で利用が拡大した。両サービスの合計ユーザー数は23年7月末で2万5000社に達しており、1年で2万社の新規顧客を獲得したかたちだ。それでも、UPSIDER創業者兼代表取締役の宮城徹は「歯がゆさが残る1年でした」と満足していない。

同社のビジョンは、先進テクノロジーを活用した総合金融機関として成長企業を支えるというもの。法人カード以外の領域にビジネスを拡大するための準備に時間がかかったという反省がある。「要は経営力が足りていなかったんです」と自己評価は厳しいが、打つべき手は打ってきた。22年8月、もうひとりの創業者でCOOを務めていた水野智規が代表取締役に就任し、共同代表制に移行したのだ。水野はコンサルファームで金融インフラの設計・開発に携わった後、ユーザベースでNewsPicksの立ち上げに参画。エンジニアとしてのバックグラウンドを生かしたプロダクトづくりに強みをもつ。

支払い.comの立ち上げも水野が主導し、当初は宮城が法人カード事業を担当するという役割分担だった。しかし23年からは、軌道に乗った支払い.comと法人カード事業を水野がまとめてマネジメントする体制に変え、宮城は新規事業の仕込みや経営体制の強化に十分な時間を使えるようになった。テクノロジーや金融ビジネスに精通する強力な人材を新たに採用、経営陣に迎え入れ、新世代の総合金融機関としてのサービスを市場に投入する準備は整った。

水野から見ても、共同代表制によってUPSIDERの経営力は間違いなく底上げされたという。「これまではあまり目立ちたくないと思っていたんです。その結果、宮城に負担が偏ってしまっていた。自分を矢面に立つ立場に追い込むことで、経営チームとして強くなった実感がある」。

アウトプットも続々と具体化している。23年8月、AIを活用して決済に関する業務を効率化するプロダクト「UPSIDER Coworker」をリリース。11月にはみずほフィナンシャルグループと100億円規模のグロースデットファンドを立ち上げ、スタートアップの資金調達に日本では前例のない選択肢を用意した。従来の国内デットファンドの融資はせいぜい1社あたり1億~2億円程度だが、法人カード事業で培ったAIによる与信判断のデータなどを基にした新たなモデルにより、最大で10億円規模の融資を最短1週間で行う枠組みを実現している。

こうした取り組みに伴い、UPSIDERが背負う責任はより大きくなった。「自分たちが成功したいとかじゃないんです。僕らがつまずいたら、挑戦する人にお金を出す仕組みがなくなってしまうんじゃないかという危機感がある」と宮城は吐露する。

自身も資金調達に苦労してきた経緯がある。「次世代の挑戦者にバトンをしっかり渡せるように、社会の公器としての自覚をもった事業運営をすべきステージに来ていると肝に銘じています」。


宮城 徹◎マッキンゼー・アンド・カンパニーの東京支社・ ロンドン支社を経て、2018年にUPSIDERを共同創業。
水野智規◎アビームコンサルティングやユーザベースでのメディア事業立ち上げを経て2018年にUPSIDERを共同創業。

文=本多和幸 写真=小田駿一

この記事は 「Forbes JAPAN 2024年1月号」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

タグ:

ForbesBrandVoice

人気記事