熊平:気候変動の影響から、水と食料をどのように安定的に確保し続けられるかをテーマに起業準備を進めています。具体的には、気候変動が農業やサプライチェーンにどのように影響するのかを、スタンフォードの研究者と一緒に予測し、農家やビジネス、金融機関の意思決定に役立ててもらおうとしています。
よく、健康のために「一日2リットル水を飲みなさい」と言われますが、私たちは食べ物を通じて、一人当たりその1500倍にあたる毎日3トンもの水を消費しています。
気候変動の影響は、気温の上昇に限りません。数百年にわたって同じだった降雨量や時期を一変させます。真水の70パーセントを消費し、8割以上を雨に依存する農業は気候変動が直撃する分野です。干ばつや洪水、季節外れの天候を心配するのは、ケニアの小規模農家もアメリカの大農家も同じです。
最近は温室効果ガスを減らすカーボン・ニュートラルが話題になっていますが、地球温暖化がとまるまで、人類は不安定化する気候に適応していかねばなりません。
異常気象で作物が育たなくなったり、災害で致命的な損失が出てしまったりする前に、先んじて作物や農法や耕作地域をシフトしていくためのツール開発にあたっています。
──(ヘネシー氏からの質問)日本人初のナイト・ヘネシー奨学生として、KHSやスタンフォードのエコシステムはどのようなものだと感じていますか?
熊平:プロジェクトの第一弾として、水と農業について気候変動への適応策をまとめたプレーブックを発表しました。
スタンフォードのサステナビリティ・スクールの教授陣に指導仰ぎつつ、気候テック起業プログラムからも手厚く支援を受け、さらには博士課程や他学部の学生とも協力しながらプロジェクトを進めています。日本からは研究者や戦略コンサルタント、医師や開発専門家が30人以上参加してくれました。
最先端の研究、起業支援、そして優秀な学生たちが全てそろうスタンフォードは、科学と実務を融合させる気候テック起業家にとって最高の環境です。
また、KHSでは、ジョンをはじめとするチームからメンタリングが受けられるほか、政策やサステナビリティ、エンジニアリングなどさまざまなテーマを研究する他の学生から日々刺激を受けています。実は、このプロジェクトを始めたのも、ジョンからの「ビル・ゲイツなら複雑なテーマを分かりやすく説明してコンセンサスをつくる」というフィードバックがきっかけでした。
学際的で、産学連携したプロジェクトは、複雑すぎるという理由で敬遠するのではなく、むしろ大きな変化を起こす機会として応援するスタンフォードの気風に背中を押されています。世界の中心から、未来を創っていきたいですね。