前編では、ヘネシー氏が現在力を注いでいる、スタンフォード大学のナイト・ヘネシー奨学生プログラム(KHS)についてお話を聞きました。
今回は、いま世界的な課題解決のテーマとなっている「気候変動」について伺いました。
先端技術への長期投資が不可欠
──気候変動分野において、シリコンバレーはどんな役割を果たすことができるのでしょうか。シリコンバレーは技術面でも、イノベーションにおいても、重要な役割を果たすことができると思います。ただし、エネルギー技術はITとは違うことを忘れてはなりません。AI技術が、大学での研究プロジェクトから製品化されるまでの期間は、1年から2年ほどです。一方で、新しいバッテリーのようなエネルギー技術の製品化には、10年かかることも珍しくありません。技術開発に加えて、製造方法や、安全性も見極めなければならない。寿命や充放電の問題も解決しなければならない。そのためには、時間と労力、そして長期にわたる投資が必要なのです。
──社会全体として変えていくべきことはどのようなものでしょうか。
気候変動問題の解決には、新しいテクノロジーと政策変化の両方が必要だと思います。これには時間がかかります。
例えばガソリン車から電気自動車(EV)への転換は、気候変動の有効な解決策です。しかしEVを作るだけでは不十分で、電気を生み出すエネルギー源もグリーンなものにしなければなりません。ここにも技術革新が必要です。
先日、コンピュータ博物館で講演をしたとき、EVを持っている人は何人いるかと聞きました。多くの人が手を挙げました。次に今夜EVを充電しなければならない人はいるかと尋ねました。EVを持っている人全員が手を上げました。これだけEVが普及しているのですから、より優れた、より安価なバッテリーが必要不可欠です。今後、ノーベル賞を受賞したいなら、安価で大容量のエネルギー貯蔵技術を発明するといいでしょう。LEDやリチウムイオン電池を発明した人たちよりも名誉のある賞をもらうことになりますよ。
政策的な変革も必要です。もし私が魔法の杖を持っていたら、炭素税を導入するのですが。
イーロン・マスク的アプローチも必要
──何かロールモデルになるような例はありますか?ビル・ゲイツ氏が2016年に設立した気候変動向けファンド「ブレークスルー・エナジー」は、20年で10億ドル超を投じるという、長期的な視点に立った投資を行っています。そのようなものも必要でしょう。しかし、イノベーションとクリエイティビティも必要です。イーロン・マスクがEV企業のテスラで実践してきた、部品の自社製造や車両の受注生産といった、既存の自動車メーカーがやらなかったようなことです。
考えてみれば、日本のトヨタがそれをしなかったのはちょっと驚きです。ハイブリッド自動車の開発で大きく他社をリードしていたので、もしかしたらハイブリッドがEVへのジャンプの足かせになってしまったのかもしれません。
──スタンフォードから気候変動分野のスタートアップを始めようと考えている起業家へのアドバイスは何でしょうか。
環境技術の多くは開発や製品化までの期間が長いですから、自分の技術が長期的に優位に立てるという確信がなければなりません。問題を解決するためのパズルのピースがたくさんあることも、認識しなければなりません。つまり、炭素隔離(二酸化炭素の大気中への排出を抑制すること)からエネルギー貯蔵、生産、効率まで、あらゆるものがあるのです。まだチャンスはたくさんある、ということでもありますね。
ジョン・ヘネシー氏