まず、実際に新分野へ進出するとなると、最初に想定した以上の難しさに直面することが現実には多いということです。成功の保証がない中で経営陣の集中力が散漫になるなど、予想もしていなかった方向に影響が及ぶこともあるでしょう。
次に、自分たちにとってエグゼキューションが難しくない分野は、他社にとってもそれほど難しくない可能性が高いという点も考慮しなければなりません(もちろん、例外もあります)。そのため、仮に事業の立ち上げに成功したとしても、他のプレーヤーが参入しはじめた時点でアップサイドが限定的、あるいは一時的なものになってしまう可能性があります。
対照的に、右上のエリアは大きなTAMと高い難易度が特徴で、参入するには勇気がいるでしょう。この組み合わせに該当する分野では、その高い参入障壁を乗り越えることさえできれば、独占的なシェアを獲得できる可能性があります。参入障壁がフィルターとして機能するため、それを通り抜けられるほんの一握りの企業は競争優位性を長期的に確保できる可能性があり、非常に穏やかな競争環境の中で成長できるかもしれません。
いずれの場合も、その分野において他社よりも上手くエグゼキューションできる独自のポジションにあるかどうかを分析することが鍵となるでしょう。
このマトリックスを戦略ツールとして活用する際には、各組み合わせのポテンシャルについてよく議論および検討することが非常に重要です。例えば、左下はすぐに結果が出せるという意味では合理的な選択かもしれませんが、一方で右上は多くの課題を伴うものの、長期的には大きなリターンが期待できます。進出を検討している分野のポテンャルをこのようにマッピングすることで、会社にとって最も有利な道を選ぶための建設的かつ戦略的な議論を引き出すことができるでしょう。
つまり、このマトリックスはあらかじめ道筋が用意されているロードマップなどではなく、戦略的思考やポイントを抑えた建設的な議論を促進するためのツールです。自分たちの独自のポジションや強みが何であるかを再検討し、目先のリターンだけでなく企業としての持続的な成長を見据えた上で、今後の事業拡大先を賢く選択できるように意図して作られています。
また、このマトリックスは、戦略的選択を視覚化および議論するための実用的なツールとして私が作成したものではありますが、偉大なる先人たちが築き上げてきた知恵があってこそです。より詳細で高度な分析を行うなら、マイケル・ポーターやハミルトン・W・ヘルマーの代表的な基本書が必読でしょう。競争戦略や価値創造の理解に対する彼らの貢献は計り知れず、このマトリックスのような単純なツールを補完する貴重な洞察を提供してくれるはずです。
連載:VCのインサイト
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